表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/192

52.あの男を使うのはまだ先よ

 ルヴィ兄様の婚約者が決まった。承認を経て、発表しなくてはいけない。お父様やガブリエラ様に、話は通っていた。あとは貴族に周知して……手順を組み立てる私の部屋へ、フォルト兄様が顔を見せた。


「トリア、あの男だが……処分していいか?」


「……あの男?」


「アディソン王国の自称騎士団長だ」


 面白がるような口調で、フォルト兄様は肩を竦める。国境まで出かけていたから、思い出したのね。私はすっかり忘れていたわ。以前はともかく、今は使い道がないのよね。せいぜい、憂さ晴らしに使うくらいかしら。


 椅子を勧めると、私の前にある書斎の机に腰掛けた。行儀が悪いんだから。開いていた書類を片付けて、左端に積み上げた。


「自称ではなく、あれでも騎士団長なのよ」


 実力が伴っているか、問われたら首を横に振る。おそらく私でもいい戦いに持ち込めるわ。短剣の不利を、長剣が補ったとしても……モーリスの勝てる確率は低かった。


「だが、あの程度で王国最強と()()()()るんだろ?」


 実力主義のフォルト兄様が食い下がる理由は、ここね。あの程度の実力で、アディソン王国最強を名乗った。


「仕方ないわ、忖度した結果だもの。だから謳われず、言われるだけなのよ」


 本当の実力者なら、誰もが最強と謳う。広がっていく噂は現実と重なり、人々の尊敬や憧れはついてこないの。くすくす笑いながら指摘したら、フォルト兄様は満足そうに頷いた。


「難しい顔より、今の笑顔のほうが可愛いぞ」


「お気遣い嬉しいわ。フォルト兄様。モーリスは役立たずだけれど、ちゃんと出番があるわ。プライドを折るような、屈辱的な扱いをして頂戴」


「承知した。俺もそのほうが得意だし、な」


 にやっと笑う表情は、獰猛な肉食獣のよう。獲物に食らいつく直前に似た、物騒な雰囲気で喉をくくっと鳴らす。品のない振る舞いなのに、フォルト兄様がすると腹が立たないの。似合っているから? それとも慣れかしら。


「ルヴィ兄の婚約者が代わったらしいが、次のもどこかの姫様か?」


「いいえ、ザックス侯爵令嬢よ」


「へぇ……トリアが気に入ったなら、義母上みたいなタイプか」


 変なところで鋭いフォルト兄様は、時々、核心を言い当ててくる。なんの計算もないのに、本能で指摘するの。この勘を自在に操れたら、すごく助かるのだけれど。


「そういや、帰りにこれを預かった」


 フォルト兄様にお使いを頼む? 無謀なことをする人もいるものね。こうやって忘れて、終わった頃に出してくる人なのに。呆れながら受け取ったのは、叔父様からの手紙だった。きちんと封がされ、大神官の印が押されている。


「使者から奪ったの?」


「いや。何してんだと声をかけたら、震えながら差し出してきた」


 また盗賊みたいな格好だったのではなくて? 困った兄だこと。


 開いた封筒の中は、手紙というより顛末書ね。感情を省いて、淡々と事実が連ねられている。神殿内の清掃が終わったので、他国の神殿の状況を調査していた。その結果だわ。


 帝国の大神官二人、デーンズとアディソンを除く王国の大神官が五人。全員が、今回の事態を重く受け止めて返事を寄越した。ここまでは前回わかっていたことよ。意外だったのは、残る二つの王国の大神官の対応だった。


 神殿が一枚岩とは言わない。でも権威を蔑ろにされて、動かないなんておかしいわ。叔父様も同じことを考えたのね。二つの神殿に対し、高位神官の入れ替えを指示した。他王国の大神官が派遣した形をとり、送り込んだ結果がこれね。


「大神官が、いない? おかしいだろ」


「ええ、おかしいわ」


 覗き込んだフォルト兄様は、結論のほうから読んだみたい。先に声に出され、私は同意しながら二枚目に目を通した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大神官、夜逃げ説が浮上?(@ ̄□ ̄@;)!! 小人は猫作者さんのラー油から、餃子を閃きました。 豚肉(オークキング)の挽き肉に塩コショウ、醤油、山椒、生姜を入れて混ぜ込みます。
 お。忖度マシマシ騎士団長モリモーリスくん、出番はまだ先っと。ふふっ。モーリスくんの行く末が気になり愉しみで愉しみで♬  結婚詐欺男でもあり監禁孕ませどクズでもあるけれど、トリアちゃんに一目惚れし執愛…
ひょっとしたらデーンズとアディソンの両王國は、神殿の形骸化に手を付けたのかも知れませんね~ 王権が自國内の中央集権化に成功したら、次に来るのは神権の取り込みか形骸化に向かうのは史実における英國々教会の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ