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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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45.酸っぱい林檎をどう使うか

 ルヴィ兄様の婚約は解消となった。一方的な通知だけれど、破棄ではない。この帝国で、婚約破棄は唾棄すべき行いとされていた。過去に事例があるのだけれど、一方的に人前で婚約破棄した皇子がいたらしいわ。隣に婚約者ではない、はしたない女性の腰を抱き寄せて。


 もし目の前で見たら、横面を張ってしまいそうね。はしたない女性は貴族ではあるものの、男爵令嬢の地位しか持たない。その上、外見は可愛いが、それだけ。特に認められる技能や才能は持ち合わせなかった。到底、皇子の妻に届かない。


 この時点で、ハニートラップと判断した周囲は正しい。皇子は地位を剥奪され、平民として放逐された。もちろん、庇護する貴族はいない。間違って血を残さぬよう、断種の措置も施されたから、拾っても使い道がないわ。はしたない女性は国を乱した罪で、国外追放になった。


 そのままの意味ではないわ。他国に通知が出ていたの。彼女の入国が確認されたら、国交を鎖ざすと。当然、どの国の国境も彼女を通さない。けれど、国外追放された女性が、帝国に留まることも不可能だった。


 姿を消した彼女が、どこぞの街道の宿場で娼婦をしていただの、海に飛び込んだだの。様々な憶測が囁かれたが、公式記録は国外追放までよ。貴族女性だったのに、神殿で保護された話がないのは、彼女の素行が原因ね。神殿の慈善事業も、相手を選ぶのよ。


 だから、この帝国で婚約を破棄する王侯貴族はいない。白紙撤回となる解消か、政略結婚で両家に利害関係があれば契約違反か。どちらかが理由として記されてきた。


 あれこれ考えながら、可愛い娘をあやす。抱き上げた私の腕に、ぴたりと吸い付く肌は褐色だ。私よりやや薄い色をしている。銀の髪は癖があって、ふわふわしていた。まだ毛量が少ないから、不思議な感じね。大きな目をぱちぱちと瞬くイングリットは、口を開けて声を上げた。


 あぶぅ……きゃあ。両手両足を必死に動かし、何かを訴えているみたい。残念ながら、お母様にもわからないのよ。そう口にして頬を寄せた。イングリットに会う時は、化粧をしない。保湿だけで、素顔で触れ合うの。


「可愛いわ」


 周囲で見守る乳母のアンナや侍女エリーゼからも、同意の声があがる。皆に褒められ、大切に保護され、愛されて育つの。もう一度頬を触れ合わせて、時間を確認した。もう、支度をしないと間に合わないわ。


「支度をしましょう」


「はい、お嬢様」


 アンナに後を任せ、私はエリーゼと外へ出た。待っていた執事コンラートを従え、自室へ戻る。着替える必要はないため、化粧を任せた。調査のため、一時的に離れていたコンラートは、手元に報告書を抱えている。


「どの程度まで探れたかしら」


「お嬢様が希望なさる範囲は、調査済みでございます」


 受け取った報告書に目を通す。速読して内容を頭に入れ、次々と読み進めた。


「軍事同盟……? 詰めが甘いわ」


 主犯と思われるデーンズ王国、愚かに踊ったアディソン王国、利益に目が眩んだアルホフ王国とすでに破綻したブリュート王国。四つの国が軍事同盟を結んだ。基本的な考えは悪くないわ。


 帝国を入れて八つしかない国々の半分が同盟を組み、強大な帝国と対峙する。我がリヒター帝国を悪者にするなら、さぞ盛り上がる物語になったことでしょう。


 すでにブリュートが陥落した。アルホフからは助命嘆願が届いている。表面上は友好親善を謳い、帝国に取り入ろうとする思惑が感じられた。突っぱねるか、取り入れて利用するか。


 ふと思いつきを口にした。


「コンラート。酸っぱい林檎があったとして、捨ててしまう? それとも何とかして食べようとする?」


「お嬢様の謎かけは難しいですな。私でしたら、アップルパイに仕立てて、誰かに食べさせます」


 自ら口にする必要はない。その回答が気に入って、くすくすと笑った。


「素敵ね。その案を使わせてもらうわ」


 ちょうど支度も整った。エリーゼに礼を言って立ち上がり、鏡の前で身なりを確認する。では、行きましょうか。

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― 新着の感想 ―
>酸っぱい林檎  毒林檎ならぬ毒アップルパイ? 節操の無い守銭奴アルホフを仕立て上げ、送り先は、身の丈知らずの主犯デーンズか、愚かな踊り子アディソンか… と妄想中〜 愉しみ〜
帝國は長い歴史を持つだけに、ハニトラを対策もキッチリしてますね〜 ハニトラに引っかかった皇子が断種されて身分を失ったとありますが、物理的な去勢だったんでしょうか?薬による断種はいくらでも誤魔化しようが…
コンラートさん私と同じだなぁ。私はアップルパイにした上で、酸っぱいリンゴを作った農家に、美味しくなりましたよって食わすなぁ。 兄の嫁は、別に初婚でなくても良さそうですけどね。教会で保護されている寡婦と…
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