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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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39.蝶も花も毒の野にありて ***SIDEウルリヒ

 異母兄も義姉も、好ましい人物だった。年齢差があるため、次の皇太子に私を推す声が聞こえ始めた時、神殿に入る決意をする。母にも言われていたことだ。お前は皇族だが、皇帝の器ではない、と。その通りだと思う。


 あのような激しさも情熱もない。幸いにして、甥三人はそれぞれに能力が分かれていた。争う危険性は、末の姫が潰していく。彼女が皇族のまとめ役であり、要だった。なのに、政略結婚? とるに足らんアディソンの、直系ですらない男に!


 神殿内で力を蓄えたのは、家族の役に立つため。それなのに、この身が神職であるせいで動けない。神殿に入る前なら、私が娶ってでも彼女を留めただろう。悔しいが祝福して送り出した。この後悔は生涯消えないと思ったが……隣国は禁忌に手を染めた。


 九柱の神々が人の管理を委託したとされる神殿を蔑ろにし、婚姻の事実を偽り、我が姪を騙した。子を連れて戻ったトリアは気高く、どこも穢されてなどいない。その事実にほっとする。と同時に、彼女の復讐に協力することを決めた。


 他国の神殿へ緊急連絡を回す。大神官宛だが、封をしなかった。封をする前に発送された、と言い訳ができるように根回しも忘れない。大神官達の手に届くまでに、何人が情報を盗み見るだろうか。神殿内に広まる噂に、尾鰭背鰭が増えていく。


 帝国のもう一人の大神官、七つの王国に一人ずつ配置された大神官。私を入れて九人いる大神官は、それぞれ一柱の神の代理人である。神殿すべての権威を動かすのは、多数決だった。帝国に二人、シュナイト、プロイス、イェンチュ、ブリュート――六人の大神官が賛同する。


 まずはアディソン王国から。怯えるデーンズ王国はその後だ。一度の狩りで獲物をすべて仕留めれば、トリアが嘆く。彼女の望みは、長引かせて後悔させ、彼らがもう許せと縋るまで。いや、その後も彼女は手を緩めないはずだ。


「そろそろか」


 噂が浸透する頃、動く前にトリアが訪ねてきた。二度の会食が流れたため、共に食事を摂ろうと提案される。断る理由はない。ちょうど、熟した木の実が一つ、落ちてくる頃合いだった。


「熟し過ぎて腐ったか」


 神殿の足元に紛れた不純物を排除し、権威を高めていく。私を守護するのは、力と正義、断罪を司る神だ。皮肉なことに、私ほど正義に反する大神官はいないだろうが。それでも守護神の権威は消えない。


「子を持たぬ私にとって、トリアは我が子も同然。手を出した愚者を潰すのに、遠慮も容赦も不要だ」


 異母兄の不安を消すために神職を選んで、子を生さぬ誓いを立てた。愛しい姪は、私を慕ってくれる。あの子のためなら、持てる権力と影響力を駆使して戦う覚悟があった。


「大神官ウルリヒ様へのお手紙にございます」


 信用する側近の神官が運んできた返答に、ゆっくりと目を通す。アルホフの大神官もこちらについたか。欲深いが賢い奴だな。口元が緩んだ。


「作戦を決行します。すべては神々の御為に……わかっていますね?」


「委細承知しております」


 下がる神官を見送り、ゆったりと足を組んだ。その上に手を乗せる。指先がとんとんと足を叩いた。


 神々の威光を無視したアディソン国王に対し、神殿が破門を申し渡す。そうなった時、あの男はどうするだろうか。トリアに相談が必要だが、信者を焚き付けて追い落とすのも面白そうだ。いや、ブリュートと同じ手は芸がない。


 嘆きと後悔を存分に引き出す方法を考えるのは、存外楽しい。愚王が反省する必要はなかった。ただ失敗した己を呪い、神々の天罰を身に受けて苦しめば満足できる。さて、賢いあの子はどんな手を打ってくるか。


 送り届けたばかりの姪の美しい姿を思い浮かべ、用意された花茶に手をつける。やや渋い、毒入りのお茶を喉に流し込んだ。

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― 新着の感想 ―
叔父様の闇感じるッス(・∀・) 神殿行き 叔父様の母さんに思い込まされてない?(争い回避の為の洗脳か?) ほぅ(*´ω`*) 神官叔父様は主人公を娘として愛してるのか 家族として愛してるのか、、 女と…
お茶程度の毒に当たるようなお方には思えませんが、なんか策かな。 トリアと結婚がどうとか言ってるけど、我が娘って言ってるから形式上結婚して帝国に引き留めるという意味ではないかなと思います。 カノッサの…
日本の法律では甥・姪とは結婚できないので、 違和感が凄まじいのですが異世界ファンタジーですからね 皇帝の器とはどれ程に深いのか。 これでも足りないと言うのが怖い
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