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03.あなたの故郷に着いたわ

 私達は大きなトラブルもなく、国境手前の街に到着した。国境の恩恵で栄える街は、賑やかだ。商品を積んだ商人の荷馬車が順番待ちをする脇を、兵士の警護付きで走り抜ける。この街で休憩はしない。一刻も早く、リヒター帝国の国境を抜けたかった。


 見覚えのある紋章の馬車に驚くが、視線を逸らした。中に誰が乗っているか、確認する必要はない。窓際にいた私が身をずらしたことに、フォルト兄様が反応した。目敏い兄の手が、薄絹のカーテンを引く。これで外からは見えないはず。


「知り合いか?」


「ええ、あの紋章はローナン子爵家です」


 これだけで通じるのは助かる。夫と思っていたモーリス、すまわちスチュアート公爵の寄子に当たる家だ。アディソン王国は、寄親寄子の制度が残っていた。リヒター帝国なら、本家分家と表現する。公爵家に格上げされたとき、与えられた寄子の一つだった。


「見えないと思うが……」


 手を打つか。カリスマ性のある長兄、賢い次兄と違い、武勇に優れた末兄は考えることが苦手だった。それでも本能なのか、いつだって最良の道を選ぶ。


 窓から手招きし、部下に指示を出した。ローナン子爵家の馬車が、国境を越えるか監視すること。もし引き返すなら、小さなトラブルが起きるかもしれない、と。遠回しに、引き留めて足を遅らせろと命じた。


「そこまでなさらなくても」


 もう国境は目の前なのに。ほわりと笑う私に、フォルト兄様は真剣な顔で首を横に振った。


「嫌な感じがする。俺の勘はよく当たる、知っているだろ?」


「ええ、存じております。フォルト兄様がお嫌なら、手を打つのが最善ですわ」


 にやっと笑う末兄は、ちらちらと窓の方を見つめる。そこには愛馬がいた。馬車のカーテンを閉めたため、兄の顔が見えずに覗き込んでくる。器用な愛馬の頬を撫でて、危ないから離れるよう言い聞かせていた。


「フォルト兄様、国境を越えたら少し寝ます」


 だから外へ出て、愛馬に乗ってあげては? 言葉に出さず促せば、困ったように苦笑いして頬を指でぽりぽりと掻いた。


「わかった、ありがとうな」


 皇族らしからぬ口調は、戦場にいる期間が長いため。リヒター帝国軍の元帥であるフォルト兄様は、最前線に身を置いてきた。比類ない強さと親しみやすさで、軍でも人気が高いの。普段は目立つ赤毛も、戦場では保護色のように沈む。戦うために生まれたような人だった。


 エーデルシュタイン大公の称号より、元帥と呼ぶ人のほうが多い。国軍を纏めて頂点に立つ実力者は、嬉しそうに愛馬を眺めた。


「元帥閣下、国境の門を潜ります」


「承知した」


 がたんと大きく左右に揺れた馬車は、最優先で国境を越える。リヒター帝国側に入って少し、ようやく馬車が止まった。腕の中で眠るイングリットが、あぶぅと愛らしい声を上げる。


「あなたの()()に着いたわよ。お母様と幸せになりましょうね」


 答えるように両手をにぎにぎ動かす娘に、私は破顔した。

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― 新着の感想 ―
初っ端からもうキナ臭い話がプンプンですな。名探偵小人は助手の猫作者さんと共に元帥の愛馬さんにインタビューしてます。 ふむふむ、この後何があったか分かると、関係者としてまだ先は言えないのですな?謎は深ま…
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