29.玉座は私のものだ *** SIDE帝国公爵
強大なリヒター帝国の公爵家に生まれ、いつしか頂点を目指した。男児に生まれたからには、当然だな。当時の皇帝マインラートは男児が一人だけ。皇位継承権二位は私だった。
皇妃ガブリエラはもう子を産めない。そのように手を回した。体内に蓄積された毒が回っているはず。そのために侍従や料理人を買収しておいた。毒見役が厄介だが、奴らは即死の毒でなければ気付かない。ほとんどが男であるため、女性用の不妊薬の効果は現れないだろう。
まだ幼い赤子、いつ神の御許に戻ってもおかしくない。儚くなってもらう計画も立てた。完璧だった。赤子を処理すれば、あとは年上の皇帝が引退するのを待つだけ。邪魔な皇弟も神殿に入ってくれたことだし、皇妹も女児を出産した。
すべてが計画通り、なにもかも順調だった。
「……なんだと?!」
計画が崩れ始めたのは、マインラートが辺境伯の娘に手をつけたと聞いた時からか。すでに身籠っており、皇妃が承認している。側妃として皇宮へ入った。一歳年下の次男を産んでも……まだ余裕があった。
神の足元へ送る赤子が増えるだけの話。そう判断した直後、東のシュナイト王国の一部族の女を娶った。まだ子を増やすつもりか。舌打ちしたい気持ちで邪魔を試みるも、差し向けた兵士は全滅した。
武芸に秀でた一族で、傭兵や騎士として他国へ仕官しているらしい。その首長の娘が結婚するのだ、護衛は驚く顔触れだった。他国の騎士団長や傭兵部隊隊長がずらりと揃っていた。娘自身も女性騎士として、シュナイト王妃に仕えた実力者だ。
己に新たな子が生まれぬならと、別の手を打つとは。ガブリエラ皇妃は策略にも強かったようだ。こちらも相応の手を打とう。その矢先、帝国の才女として名高い侯爵令嬢を召し上げた。
わずか数年で皇帝の子は四人となり、磐石の体制を整える。暗殺のために送り込む者は悉く退けられる。歯噛みする間に、皇位継承権は七位まで落ちた。皇妹の一人が双子の男児を産んだのだ。その上、直系の皇女ヴィクトーリアにも継承権を与えた。
長男は人望を集め、次男が宰相として辣腕を振るう。三男は実力で元帥を勝ち取り、不敗の称号を得た。末娘を中心に結束する皇子達を切り離す方法は、なかなか見つからない。苛立つ私に策を持ち込んだのは、デーンズ王国の使者だった。
皇女ヴィクトーリアがいなければ、三人の結束は瓦解する。それゆえに外へ嫁がせ、縁を切らせる。さらに三人がいがみ合うよう仕向ければいい、と。
私はその策に乗った。帝国のためだと口にして、皇女を隣国アディソンへ嫁がせる。その上で切り崩そうと試みるも、これまた手の内を読まれたように失敗が続いた。
「絶対に諦めんぞ」
皇帝の座に就くのだ。もはや執念に近い。何が帝国の青だ。忌々しい呪いではないか。外では口にできない悪態をついて、ワインを飲み干した。
そこへ入った情報に、チャンスだと目を輝かせる。皇宮へ呼ばれた息子からだった。今夜、皇族が集まって晩餐会を開く。そこには大神官のウルリヒも参加する? 三男だからと神殿へ出した息子が、ようやく掴んだチャンスだ。
全員に毒を盛ると決めた。毒見役もいるが、なに……方法はいくらでもある。豪華な食事に高いワインを用意させ、事前の祝杯をあげる。そこへ届いたのは、予想を裏切る結果だった。まあ、三兄弟の中で、武力だけでも削げたのなら……上出来か。




