28.暗殺の対象はほぼ全員ね
騒動を起こした貴族は、皇帝直属の影によって洗い出された。追跡に気づかず、そのまま屋敷に戻る体たらくだ。レベルの低さに、エック兄様が呻いたほどよ。
「なぜあんなのが入り込めたんだ」
「それが……ね」
使用人への聞き込みの結果、思わぬ人物が関わっていた。晩餐会に参加できなかった叔父様だ。彼自身は神殿からの呼び出しがあり、名残惜しそうに戻っていった。ところがその際に同行した神官が二名、退出した記録がない。
貴族の次男や三男が騎士になる話はよく聞くが、それと同程度の数が神殿に流れる。世俗の地位に関係なく、実力で判断されるためだ。叔父様もその実力で成り上がった。政治力にお父様の影響がなかったとは言わないが、神殿には独自のルールと階級が存在した。
大神官である叔父様には、常に四名の神官が付き従う。今回は貴族出身者を選んで連れてきていた。皇宮内の作法に戸惑わないよう、それなりの家格出身者を選んだのね。ところが急いで退出した叔父様は、側仕えの神官と馬車に乗り込んだ。その際、親族と挨拶をすると二人の神官は残った。
ここまでが馬車停めの兵士と、見送りに出た侍従の記録よ。もし晩餐に参加してたら、叔父様もワインに口をつけた可能性がある。
「誰を狙ったのかしら」
皇族か、大神官か。ぽつりと疑問を呈した私に、エック兄様が懸念を口にする。
「叔父上でしょうか。大神官は、寿命以外の引退がありません」
頂点である役職に上り詰めたら、落ちる心配は不要だった。よほどの犯罪に関わらなければ、死ぬまで大神官の地位を保てる。各国の大神官の数は決まっているから、権力争いによる間引き?
「宰相エッケハルトの可能性は?」
ルヴィ兄様が教えてくれたのは、貴族の財産や領地の相続に関する法律を制定する話だった。直系、または指名された親族以外は相続の権限を失う。私が離婚を決めた頃、議題に上がった。エック兄様が先頭に立って進めている法律らしい。一部の貴族には不都合なのでしょうね。
「普通、そこは皇帝陛下でしょう」
エック兄様は肩を竦めた。二人とも、自分が狙われている可能性をさらりと流す。権力や財産を持てば、その倍は敵が増える。ガブリエラ様の教えだったわね。
「わしはもう狙われんじゃろ」
「わからんぞ、マインラート。恨みを買っているからな」
このお二人も、恨みからの暗殺ならあり得る。なにぶんにも厳しい人達だから、恐れられていたでしょうし。
「まさかとは思うが……」
私を見る兄二人が言葉を濁した。もしかして、争いの種になる私を消そうとした? アディソン王国に買収される貴族なんて、いるかしら。
「思わぬところに敵が潜んでいることもある。例えば……そなたらの婚約者はどうだ? トリアが戻って、婚約者に何か言われておらぬか」
ガブリエラ様は眉根を寄せた。嫉妬もあるのね。こうやって連ねてみると、私達が生きていること自体、奇跡のような気がしてきたわ。




