22.獲物はまだ三つ残っているわ
派手な赤毛の父と、金髪の義母……二人が並ぶと華やかだった。私の銀髪は母親譲り、他の兄弟も似たような感じね。ただ顔が父親似のエッケハルト兄様は、髪色だけ母親と同じ黒だった。艶やかで綺麗だと思うけれど、エック兄様は赤毛のほうが良かったと口にしていたわね。
顔立ち、肌や髪色さえ違う私達四人は、それぞれの色や外見を羨んできた。叔父様は明るい灰色で、私の銀髪に色が近い。神職に就き、子を成さない誓いを立てた叔父様は、孤児の保護に力を入れた。子供好きなのね。だから、私を実の娘のように可愛がってくれたの。従姉の娘というのも大きかったように思う。
「四人の子らはすべて、我が実子も同然。愛おしい我が娘の名誉を傷つけたのだ。確かに簡単に殺して終わりは……罰として軽いな」
凛々しいガブリエラ様は、ロッキングチェアの揺れを止めて立ち上がる。慌てて長椅子から飛び降りたお父様が、「わしもやるぞ」と参加表明した。当初の目的は果たしたわ。
この大陸には七つの王国と帝国が一つある。リヒター帝国が「王国」でない理由は、かつて大陸制覇を成し遂げた女王がいたからだ。彼女が初代皇帝となり、リヒテンシュタット帝国を興した。統一された帝国は一千年の栄華を極め、緩やかに衰退する。その間に、分裂したのが七つの王国だった。
リヒター帝国から分裂した国々は、それぞれに王を戴き王国を名乗る。ただ、三つの王国はすでに帝国の支配下にあった。干魃で苦しんだ国を救い、他国に攻め込まれた国を助け、攻め込んだ国を負かす。表面上は独立を保っているが、内情は我が国の属国だった。
この国々を自由に動かせるのは、皇帝であるルヴィ兄様ではない。隠居してなお権勢を誇るお父様だった。なんとしても味方につけたい。アディソン王国や黒幕と睨むデーンズ王国を叩くのに、その力は必要不可欠だわ。
「ブリュート王国が、落ちたのは知っているか?」
「いいえ」
お父様によれば、エック兄様にちょっかいを出して叩きのめされたらしい。貿易協定から締め出し、王国内の暴動を扇動したと。叛逆まで育てる前に、生活苦の民が暴発した。外交ルートも鎖ざして、容赦なく締め上げる姿が想像できるわ。
「獲物は残り三つ、うち二つが黒、もう一つは……」
にやりと笑うガブリエラ様は、意味ありげに左手を横に振った。まるで首を落とせと命じるように。優雅な仕草に、残酷な意味を含ませる。
「そうですわね。すべて手に入れてから戦うと致しましょう」
いっそ、リヒテンシュタット帝国のように、大陸を制覇してしまえばいいわ。
「……すっかり義姉上に毒されてしまって」
やれやれと首を横に振る叔父様も、敵を絞める手を緩める気はないはず。神殿は神々からの権限譲渡により成り立つ。九柱の神々は、実在すると伝えられてきた。実際、奇跡や愛し子と思われる存在も確認されている。神殿の権威を保つためにも、偽装結婚と無届は罰しなければならない。
「義姉上、俺の庭を荒らす害虫駆除を、手伝ってくれ」
神殿での丁寧な口調が嘘のよう。叔父様は信者には絶対見せない悪い顔を見せる。元皇族らしい表情だわ。「よかろう」と返す義母は、輪をかけて楽しそうだった。
敵ながら、叩きのめされる側が気の毒になる。この人達は手加減なんてしないわ。ただ、絞める力を加減して苦しみを長引かせるだけ。自業自得だから仕方ないわね、そう思える自分も同類なのだけれど。




