11.内助の功に支えられて ***エッケハルト
仕事を終えて中宮へ戻れば、コルネリアが笑顔で迎えてくれる。大きすぎて一つの街のような宮殿は、三つに区切られている。執政に関わり外部の出入りが可能な表宮、皇族の私的な居住スペースとしての中宮、一番奥は元後宮だった奥宮だ。他に離宮もあるが、あれは私的な建物に区分された。
ラウエンシュタイン大公として屋敷と領地を持っているが、普段は中宮に住んでいる。というのも、仕事量が多すぎた。様々な改革をしながら、文官達へ権限の譲渡を行うが……楽が出来るのは十年ほど先か。次代に引き継ぐまでに終わらせたいと考えていた。
「お疲れさまでした、あなた」
にこりと笑う妻コルネリアは、筆頭公爵ライフアイゼン家の令嬢だった。出会ったときに一目惚れし、口説いて結ばれた最愛の人だ。兄妹とも上手に付き合ってくれるため、家族関係での心労はなかった。上着を受け取る執事が下がると、彼女は微笑んで話し始める。
「フリッツが経済学の教授から合格を貰ったわ、褒めてあげて。ハインツも帝国法の最終過程に入ったのよ」
「素晴らしいですね、二人とも立派ですが……コリー、あなたの頑張りにも助けられています」
「よかったわ」
彼女に手を差し伸べ、エスコートしながら食堂へ向かう。大公家の屋敷は年に数回訪れる程度だが、この中宮より広い。育児だけでなく、屋敷の管理もコルネリアに任せていることが心苦しかった。けれど彼女は微笑んで「大した事ありませんわ」と口にする。
「あなたが思うほど、私は苦労しておりませんの。書類の一部は執事が代行しますし、屋敷の管理はトリアが半分請け負ってくれますもの」
「それなら……トリアにお礼をしておきます」
穏やかな会話で食堂へ入れば、息子達がすでに席についていた。遅れたことを詫びて、一緒に食事を始める。朝食や昼食は予定を合わせづらいが、夕食だけは一緒に取ることを心掛けた。これは兄上からの忠告が影響している。
顔を合わせず過ごせば他人になってしまう。一緒に語り、笑い、怒り……感情を共にしなければ家族ではない。その言葉は実感が籠っており、素直に受け取った。全員母親の違う兄妹が、仲良く家族でいられたのは……どんなに忙しくても全員でお茶や談話をする時間を作ったから。
皇族は忙しいのが当たり前、臣下ではあるが大公も同様だ。二人の息子達の成功を褒め、何か欲しいものはないか尋ねた。
「僕は、父様や母様と出かけたいです」
「うーん。僕も同じかなぁ。乗馬で湖へ行くとか」
高価なものではなく、思い出を強請る。昔の自分やフォルトの言動を思い出す。トリアも似たようなタイプでしたか。兄上は皆と同じがいいと、いつも譲っていましたね。久しぶりに休暇を取って、数日かけて別荘へ行こうと提案する。
「本当に?」
「急な仕事はなしですよ!」
「もちろんです、きちんと約束しましょう」
二人の嬉しそうな声に、気分が高揚する。別荘はどこがいいか、乗馬を希望するハインツに合わせ、滞在先で乗れるように馬を手配しよう。それから、コルネリア用に乗馬服を手配して……。
「素敵ね、家族の思い出が増えるわ」
喜ぶコルネリアの言葉にはっとした。子供は日々成長し、大きくなってしまう。当然だが、大人になればそれぞれの都合で、一緒に出掛ける機会は減るはずだ。親と出かけてくれるのは、成人までかもしれない。
「すみませんでした、コルネリア。フリッツ、ハインツも。父親らしく過ごす時間を作ります」
反省が自然と口をつき、コルネリアは「あなたらしいわ」と笑った。仕事に熱中して時間を忘れる僕の性格を知っていて、結婚したのだと言い切る。息子達も理解している、と。暖かな家庭を築いた妻に、一生頭が上がらない。それが擽ったくも嬉しくて、胸にじんと広がる幸福を噛み締めた。
僕の人生はリヒター皇族として始まり、この家庭の父親で終わる。そうであってほしい。食事を終える頃、プロイス王国降伏の前情報が入った。
これで仕事は一段落、部下にある程度預けられますね。宰相としての仕事以外に頑張ってきた、大陸統一の夢の終わりを予感する。コルネリアとの時間を増やして、年の離れた娘が欲しいと強請ってみましょうか。受け入れてくれると信じて。
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今年も大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたしますペコリ(o_ _)o)) よいお年をお迎えくださいませ




