09.中継ぎの役目は果たした ***マインラート
皇帝として、中継ぎの役目は果たした。立派だった先代から引き継いだリヒター帝国を、次の世代……息子ルートヴィッヒへ渡す。それがわしの役目だ。大した功績は残していないが、誇れるのは我が子らと妻達だ。
皇妃から生まれた正当な後継の長男、宰相を務める賢い次男、三男は武力に長けており元帥となった。文句なしの息子達だ。さらに美しく他の三人の才能を集めたような娘が一人いる。あの子は幼い頃から頭が良かった。それゆえに誤った方向へ進んでしまう。
血の分散など、息子達の妻が担ってもよかったのだ。側妃を迎えたことで、わしの代でかなり血の濁りは薄れた。ヴィクトーリアはさらなる先を求める。今になれば、誤った選択ではなかったと認めているが、当初は何を血迷ったかと心配したぞ。
ジルヴィアは女帝として必要な資質も、華やかさや能力も兼ね備えている。多少、考えが深すぎるところもあるが、それは夫となる男や周囲が気遣えばよい。他の孫達も個性的な子が揃っていた。
ルートヴィッヒとマルグリットは男女一人ずつ恵まれた。エッケハルトとコルネリアは、男の双子を授かっている。フォルクハルトとアデリナは、一度流産した。運が悪かったとしか言えない。だが二人目を身籠り、二年前に女児を出産したばかり。
孫は九人だな。ヴィクトーリアはクラウスとの間に、二人の子を産んだ。正確には三人だが、最後の子は死産で助からなかったようだ。それでも、わしらの孫には変わらない。九人と数えるのは当然だろう。
ジルヴィアが後継なのは確定だが、初孫だったこともあり……赤子の頃に多少やらかした。異母弟のウルリヒには本気で叱られ、ガブリエラにも厳しく躾けられた。今ならあんな愚行はしないが、可愛い孫娘を独占したかったのだ。
孫が増えたら愛情が分散するかと思ったが、増殖するのだな。知らなかった。帝国が栄え、他国を併合して大陸を塗り替えていく。だが、そんな政はもうわしの手を離れた。ガブリエラと二人、のんびり余生を過ごしながら、たまに訪ねてくる子や孫と交流する。
父に皇帝の座を譲られたときは恨みもした。ウルリヒは離れて神殿へ入ってしまうし、惚れて口説いたガブリエラは身籠るなり「他の妃を娶れ」と言い出す。能力は足りないのに、それ以上の結果を求められて必死だった。
考えてみれば散々な人生のようだが、すべては孫達に繋がる苦労だった。そう思えば悪くない。もう一度同じ人生を歩めと言われたら、熟考して返事をするとしよう。即答で「やる」と言える生涯ではないからな。
老いても美しいガブリエラが妻になってくれたこと、ここから人生に色がついた。鮮やかな絵画になったのは、彼女のお陰だ。マルグリット達が到着する前に、贈り物を確定させなくてはならん。飛び出す絵本はもうジルヴィアの年齢では喜ばないかもしれんが、飾ってもらうとしよう。
姉の補佐をすると決めたゲアリンデには、別の飛び出す絵本を用意する。絵の上手なレオンハルトは、姉の皇位継承の邪魔をしないよう振る舞っていた。褒美は絵の具にして、後押ししてやるのがよい。ジルヴィアが女帝となれば、二人は相応しい立場でサポートに回るのだろうから。
外を見れば、やや曇っている。到着するまで持ち堪えるだろうか。心配しながら、絵本にリボンを巻く。結んでみたがうまくいかず、解いてやり直した。
「難しいな」
「貸してみろ」
するすると綺麗に整えたガブリエラが「どうだ」と言わんばかりに胸を張る。
「さすがガブリエラじゃ」
言葉に重なるように車輪の音が聞こえた。がらがらと大きな音で、到着を知らせる。
「さあ、迎えるとしようか。ガブリエラ」
「マインラートこそ、腰をやるでないぞ」
笑いながら手を取り、二人で並んで玄関へ向かう。さあ、数日は孫との幸せな時間が待っている。存分に楽しむとしようか。




