08.誇れる子供達だ ***ガブリエル
子育てはうまくいった。あの子達は自ら未来を切り拓いていける。私の人生は大満足だった。強さを求める一族に生まれ、最強と呼ばれるまでに鍛える。夫マインラートに望まれて結婚し、一人息子をもうけた。ここまでで、十分幸せの形は出来ている。
マインラートは強大なリヒター帝国の皇帝だ。近親婚を繰り返した彼の血は濁り、新しく生まれる子は少なかった。先細りするのが目に見えた状態で、我が子を育ててどうする? イエンチュ王国の部族は、どこも子だくさんが標準だ。
一人の妻を愛し抜く部族もあれば、我がオルティスのように複数の妻を娶る一族もある。親族間の結婚で血が濁ったのなら、薄めればよい。単純にそう考えて、マインラートに側妃を認めさせた。嫌だとごねたが、数発殴ったら静かになる。こんな妻を娶った自分を恨め。
周辺国から候補者を探し、勢力争いを鎮めるために帝国貴族からも選んだ。一人だけでよい、そう伝えて彼女らに子を産んでもらう。嫁いだ先で白い結婚となり戻った女性や、婚約者の浮気で解消した女性。様々な境遇の彼女らは、息子や娘を与えてくれた。
約束した通り、一人を産んだら自由だ。実家に戻りたくないと願う側妃のため、離宮を与えた。互いに納得した関係だった。外から見たら、非道な行いだったか。そう思うこともあるが、優秀な子供達がその批判を払拭した。
私の血を強く受け継ぐルートヴィッヒ、知力に特化したエッケハルト、腕っぷしばかりのフォルクハルト。最後に才色兼備でバランスの良い娘ヴィクトーリア。末の娘を中心に、息子達は団結した。おかげで、リヒター帝国は大陸制覇まであと一歩のところまで来ている。
「今日だったであろう? ガブリエラ」
「そうだな、もうすぐ着くはずだ」
夫マインラートとともに隠居を決めたのは、若い世代の荷物になりたくないから。遠く離れた海沿いの地域を選んだのは、二人きりの生活を楽しみたかったから。
視察用と称して、この別邸を建てておいてよかった。さほど大きくない屋敷だ。使用人が二人もいれば、十分すぎる環境だった。心配したトリアが四人も寄越したので、快適に過ごしている。他に護衛が十人ほど。不要だが、気持ちは嬉しい。立場上断れないため、近くに宿舎を用意して受け入れた。
孫三人を連れて、長男の嫁が遊びに来る。それは心浮き立つ出来事だった。数日前から指折り数えてしまうほど、気持ちははしゃいでいる。
「これを見ろ! 絶対にジルを喜ばせる!!」
開くと立体的な宮殿が現れる仕掛け絵本を取り出し、マインラートが宣言した。額を押さえて、言いにくい言葉を口にする。
「マインラート……ジルヴィアはもう十五だぞ?」
「……絵本は、喜ばないか?」
不安そうなマインラートの肩が落ちる。本を畳んでそっと置いた。喜んでくれるだろうが、妹のほうが欲しがりそうだな。そう伝え、もう一冊用意してはどうかと提案した。すぐに侍女が呼ばれ、手配される。間に合うといいが。
「ゲアリンデはジルヴィアとお揃いなら、何でも喜ぶだろう」
私は確信をもって告げた。姉が大好きなゲアリンデは、幼い頃からお揃いを欲しがった。服や装飾品はもちろん、家具や文具に至るまで。
「レオは絵の具だ」
色鮮やかな絵の具がずらりと並んだ木箱は、レオンハルトの宝物になるだろう。
「そうだ! 肖像画を描いてもらうのはどうだ?」
マインラートが贈った絵の具で、孫レオンハルトが描く。その組み合わせは最高だ。それならキャンバスは私が手配しよう。別の侍女が呼ばれ、新たな注文が伝えられた。
「先触れがありました。あと一時間ほどです」
執事の連絡で、屋敷が一気に慌ただしくなる。通いの料理長が準備を始め、掃除の得意な侍女が玄関やガラスを磨く。その間に私達も身支度を済ませた。この屋敷の一大イベントだ。滞在中は楽しんでもらうとしよう! これでも元皇妃だ。もてなしの腕は落ちていないぞ!




