05.あたしの好きな宝もの ***アデリナ
イエンチュの一部族の娘、強い夫を求めて戦い……気づいたら誰も残らなかった。全員負かせてしまったため、夫になる男がいない。こうなったら国外に求めるしかあるまい。そう考えた。父は苦笑いして我が儘を許す。
外には帝国を筆頭に、多くの国がある。あたしに勝てる男がどこかにいるはず。そう告げたところ、弟が思わぬ情報を持ち込んだ。イエンチュ王国で最強と謳われた伝説の女傑が、帝国の皇妃になったと。ならば、その夫はさぞ強いに違いない。
目指す先が決まった。リヒター帝国で、最強の夫を見つける! ガブリエラ様に勝つ男がいたのなら、あたしを負かす男がいるだろう。愛用の槍を担いで、愛馬に飛び乗った。荷物は最小限、家族への挨拶もそこそこに馬を走らせる。
宿は面倒なので、食糧の調達以外で街には寄らない。街道沿いを淡々と走り、数日でリヒター帝国に入った。そこでガブリエラ様に負け、最強の夫を得て、愛らしい義妹に出会う。腕っぷしの強いあたしに似合わないから、家族にも隠してきた。可愛いものが好きで、愛らしい人形に憧れている。
夫フォルクハルトの妹、ヴィクトーリアは本当に綺麗だった。出会った瞬間、理想が息をして歩いていると思ったほどだ。さらりと柔らかな銀髪に、目の覚めるような宝石の青い瞳。白すぎる不健康な肌ではなく、日に焼けた美しい艶を保つ。だからこそ銀髪がより美しく見えた。
もし肌の真っ白な美女がいたら、黒髪などの色が濃い髪が似合うだろう。逆の組み合わせは、目に新しくより華やかに思えた。遠慮しながらも話しかける。貴族のお嬢様というのは、あたしのような武骨な女を怖がるらしい。ところが、トリアは違った。
触れてもいいと、あたしの手に触れる。恐怖も怯えもなく、普通に接してくれた。それは近くにいた侍女も同じで、おそらくトリアは普段から誰にでも優しく平等に接するのだ。彼女の態度が人形らしさを増長するようで、嬉しくなった。人形の話をしてしまったのは、そのせいもあるか。
久しぶりに夫と別行動だ。フォルトと結婚して、姉が二人と妹のトリアが増えた。憧れの女傑は義母となり、力は弱いが権力のある義父もいる。家族が増えたことで、あたしの役割も出来た。フォルトを守って戦場を駆け、国内の騎士候補を強くすること。
毎日剣を振るっても、槍の稽古をしても、誰も文句を言わない環境が楽しい。夫との手合わせは心躍るうえ、稀に勝てることもあった。成長が目に見えると、鍛錬にも力が入るものだな。
今日は義姉である皇妃マルグリットの護衛だ。子供達三人も一緒だと聞いた。トリアにそっくりなジルヴィア、絵のうまいレオンハルト、お洒落好きなゲアリンデだ。ジルヴィアはトリアを少女にしたようで、顔も性格も同じだった。あの子に会えるのが楽しみだ。
連絡を受けた場所に到着したが、まだ馬車は見えない。街道脇の木陰で愛馬から降りて、革袋の水を飲ませた。あたしも水を一口、今日は外出には最高の天気だ。晴れて眩しいこともなければ、雨の鬱陶しさもない。曇っていても、空は明るい灰色をしていた。
「今日は降らないな」
呟いたあたしの耳に、車輪の音が聞こえる。馬の蹄が重なり、言葉を交わす人の声。人数を図りながら、愛馬の背を叩いた。心得たように嘶く相棒に飛び乗り、街道へ走らせる。現れた一行は、マルグリット達だ。合流するなり、ジルヴィアが強請った。
「アデリナおば様、馬に乗せて」
可愛いお願いに、少しだけ迷ったが……遊牧民であったあたしが馬から落ちる心配はいらない。当然、前に座らせるお姫様を落とすこともない。下りて、彼女を押し上げた。鞍の前方に荷物を載せる部位があり、上手にそこへ座る。ジルヴィアの後ろに跨り、馬車の速度に合わせて歩かせた。
「私、アデリナおば様が大好きよ」
トリアと同じ言葉を口にする姪に、あたしは目を細めて「ありがとう」と返した。ああ、雨は降らないと思ったのに……湿気が多くて視界がぼやけるみたいだ。瞬きして散らしたあたしに、ジルヴィアは寄り掛かって信頼を示した。
あたしがジルヴィアを守る。フォルトとともに、新たな女帝の未来を切り開こう。心からそう思い、曇り空を仰いだ。
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