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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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21.やり返す前に味方を増やすの

 皇宮は、大きく分けて三つの宮に分かれる。大きいのは表宮(おもてみや)だ。正面に位置し、文官や武官が仕事を行う場所だった。このリヒター帝国の中枢でもあり、執務以外にも、来賓をもてなす大広間や謁見の広間も含まれる。羽を広げた鳥のように、やや湾曲した建物が特徴だった。


 一つ奥に入ると、(なか)(みや)がある。ここは皇族の私的な居住空間だった。四角い形をしており、中央に中庭がある。四方向をそれぞれ兄弟が使用しており、空いた東側を私が使う。以前と同じ部屋は日当たりも良く気に入っていた。


 さらに奥は引退した先代皇帝の家族が住まう場所になる。(おく)(みや)と呼ばれ、華やかさはない。数世代前は、皇帝の妻となる皇妃や側妃を集めた「後宮(こうきゅう)」だった。多くの女性が寵愛を競った雅な建物は、現在、装飾のほとんどを取り除かれている。


「久しぶりだわ」


 叔父様と腕を組み、奥の宮へ足を踏み入れる。薄暗い感じがするのは、壁の色が濃いからね。もう少し明るい色を選べばいいのに……と思うが、きっと先代皇妃であった義母の好みでしょう。


「兄上達に会うのは、代替わりして初めてですよ」


 叔父様は分厚い猫を被って、穏やかに微笑む。奥へ引っ込んだというのに、まだ権力も影響力も保持するお父様。彼を巻き込むのに、叔父様の存在は最適だった。なぜかお父様は、年の離れた弟に甘いの。


 案内に立つ侍女長の後ろを歩きながら、今後の算段を組み立てていく。その努力を崩すように、叔父様は甘い見通しを口にした。


「そんなに眉間に皺を寄せてはいけません。私の可愛い姪の願いを、あの方は聞き入れてくださいます」


「そうだといいけれど」


 簡単な図式だ。お父様は異母弟である叔父様に甘く、叔父様は私に甘い。間に一人挟むだけで、お父様は私を拒めなくなるわ。


 案内された扉の前で、一つ息を吐いた。大きく吐いて顔を上げる。扉をくぐれば、ベッドのような大きさの長椅子に寛ぐお父様がいた。お義母様は少し離れた位置で、ロッキングチェアを揺らす。


 相変わらず綺麗な方だわ。年齢相応に皺やシミがあるのに、ただただ美しい。所作の優雅さや微笑みの穏やかさ、加えて柔らかく包む愛情を感じた。でも内面は苛烈な方で、身内以外にとても厳しい。


「お義母様。私、ヴィクトーリアは再びこの帝国に戻りました」


「聞いておる、大儀であったな。ゆるりと休めばよい」


 大仰な言い方をなさるのは、以前と同じ。ほっとしながら勧められたソファーへ腰掛けた。隣で叔父様も挨拶を交わして、腰を下ろす。


「トリア、ウル、わしへの挨拶はないのか?」


 拗ねた口調で唇を尖らせる。子供のような振る舞いのお父様に、苦笑いが浮かんだ。威厳もへったくれもないが、家族の前ではいつもこんな感じだったわ。


「お父様、お久しぶりです。お元気なようで安心しています」


 挨拶は軽く、皇帝ではなく父として扱う。代替わりする時に聞いた注意を思い出し、立ち上がっての礼は控えた。満足そうな表情に、間違わずに済んだと胸を撫で下ろす。


 子供の振る舞いそのまま、この方は成長しない。我が儘を振り翳し、通る立場で育った。国を動かす皇帝としての姿以上に、私的な関係の時は扱いづらいの。


「兄上、俺は許せない。トリアに対する仕打ちはもちろん、神々を愚弄する者ども。報復の手を貸してくれ」


 直球で切り込んだ叔父様に、巨大な長椅子に沈んだ大柄な体を起こしたお父様は頷く。ある程度の事情は知っているはず。面会の希望がすぐ叶ったのも、腹に据えかねたからでしょう。


「わしの家族に手を出したのだ。相応の報復は覚悟しておろう。のう? ガブリエラ」


「甘いぞ、マインラート! 手を貸す程度で済むわけがあるまい」


 お義母様はお父様を叱りつける。差し出されたお茶を一口、ゆっくり味わった。説明の前に、二人には注意が必要ね。戦争は避けること、すぐに息の根を止める親切な方法は選ばないこと。これは絶対条件ですもの。

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― 新着の感想 ―
先代皇帝夫妻、圧がすごい!!切り込み隊長に見える小人は、猫作者さんの背中に乗って液体と同化します。 ペタンなった猫作者さんも液体ならば、小人も液体になれる筈!! 小人王国では、代表して小人騎士団が慰問…
>すぐに息の根を止める親切な方法は選ばないこと。これは絶対条件ですもの。 わーおw いやお気持ちは分かりますが、ここまでキッパリハッキリ断言されるともはや爽快です。
後に隠れて居る黒幕も引き摺り出して潰さないといけないからね。
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