21.やり返す前に味方を増やすの
皇宮は、大きく分けて三つの宮に分かれる。大きいのは表宮だ。正面に位置し、文官や武官が仕事を行う場所だった。このリヒター帝国の中枢でもあり、執務以外にも、来賓をもてなす大広間や謁見の広間も含まれる。羽を広げた鳥のように、やや湾曲した建物が特徴だった。
一つ奥に入ると、中の宮がある。ここは皇族の私的な居住空間だった。四角い形をしており、中央に中庭がある。四方向をそれぞれ兄弟が使用しており、空いた東側を私が使う。以前と同じ部屋は日当たりも良く気に入っていた。
さらに奥は引退した先代皇帝の家族が住まう場所になる。奥の宮と呼ばれ、華やかさはない。数世代前は、皇帝の妻となる皇妃や側妃を集めた「後宮」だった。多くの女性が寵愛を競った雅な建物は、現在、装飾のほとんどを取り除かれている。
「久しぶりだわ」
叔父様と腕を組み、奥の宮へ足を踏み入れる。薄暗い感じがするのは、壁の色が濃いからね。もう少し明るい色を選べばいいのに……と思うが、きっと先代皇妃であった義母の好みでしょう。
「兄上達に会うのは、代替わりして初めてですよ」
叔父様は分厚い猫を被って、穏やかに微笑む。奥へ引っ込んだというのに、まだ権力も影響力も保持するお父様。彼を巻き込むのに、叔父様の存在は最適だった。なぜかお父様は、年の離れた弟に甘いの。
案内に立つ侍女長の後ろを歩きながら、今後の算段を組み立てていく。その努力を崩すように、叔父様は甘い見通しを口にした。
「そんなに眉間に皺を寄せてはいけません。私の可愛い姪の願いを、あの方は聞き入れてくださいます」
「そうだといいけれど」
簡単な図式だ。お父様は異母弟である叔父様に甘く、叔父様は私に甘い。間に一人挟むだけで、お父様は私を拒めなくなるわ。
案内された扉の前で、一つ息を吐いた。大きく吐いて顔を上げる。扉をくぐれば、ベッドのような大きさの長椅子に寛ぐお父様がいた。お義母様は少し離れた位置で、ロッキングチェアを揺らす。
相変わらず綺麗な方だわ。年齢相応に皺やシミがあるのに、ただただ美しい。所作の優雅さや微笑みの穏やかさ、加えて柔らかく包む愛情を感じた。でも内面は苛烈な方で、身内以外にとても厳しい。
「お義母様。私、ヴィクトーリアは再びこの帝国に戻りました」
「聞いておる、大儀であったな。ゆるりと休めばよい」
大仰な言い方をなさるのは、以前と同じ。ほっとしながら勧められたソファーへ腰掛けた。隣で叔父様も挨拶を交わして、腰を下ろす。
「トリア、ウル、わしへの挨拶はないのか?」
拗ねた口調で唇を尖らせる。子供のような振る舞いのお父様に、苦笑いが浮かんだ。威厳もへったくれもないが、家族の前ではいつもこんな感じだったわ。
「お父様、お久しぶりです。お元気なようで安心しています」
挨拶は軽く、皇帝ではなく父として扱う。代替わりする時に聞いた注意を思い出し、立ち上がっての礼は控えた。満足そうな表情に、間違わずに済んだと胸を撫で下ろす。
子供の振る舞いそのまま、この方は成長しない。我が儘を振り翳し、通る立場で育った。国を動かす皇帝としての姿以上に、私的な関係の時は扱いづらいの。
「兄上、俺は許せない。トリアに対する仕打ちはもちろん、神々を愚弄する者ども。報復の手を貸してくれ」
直球で切り込んだ叔父様に、巨大な長椅子に沈んだ大柄な体を起こしたお父様は頷く。ある程度の事情は知っているはず。面会の希望がすぐ叶ったのも、腹に据えかねたからでしょう。
「わしの家族に手を出したのだ。相応の報復は覚悟しておろう。のう? ガブリエラ」
「甘いぞ、マインラート! 手を貸す程度で済むわけがあるまい」
お義母様はお父様を叱りつける。差し出されたお茶を一口、ゆっくり味わった。説明の前に、二人には注意が必要ね。戦争は避けること、すぐに息の根を止める親切な方法は選ばないこと。これは絶対条件ですもの。




