203.煌びやかで眩しい披露の場へ
朝から肌を磨く。そのために早朝から宮殿へ来たの。まずジルヴィアの顔を見て、変わりないことにほっとする。目を覚まして手を伸ばすから、小さな指を握って微笑んだ。本当に可愛い。この子のためなら何でもできる気がした。
抱き上げたいけれど、すぐに準備が始まる。またねと手を振り、後ろ髪を引かれながら入浴へ。大きな夜会の時はいつも同じ手順で、肌を磨き上げた。公爵邸に来て、初めての大きな社交ね。エリーゼが手慣れた様子で指示を出し、侍女達が準備に動いた。
銀髪を整え、するりとした指通りに満足して頷く。香油は薔薇にしたのね。銀髪自体が清楚なイメージだから鈴蘭や百合を想像する人が多いけれど、私は薔薇のほうが好き。磨いた肌に化粧をのせる前に、軽い食事をした。
男性と女性は準備時間が違う。そのため、クラウスはいま書類と格闘しているらしいわ。公爵になったことで、領地が増えたの。私が所有していた皇族の直轄領の一部が編入されていた。といっても、ほとんどは森なの。領民は面積から想像するより少ない。
自然豊かな別荘を貰った際、森や周辺の集落が付属した感じね。道は整備されて通りやすい。現状維持で構わないと伝えたら、クラウスも頷いた。開発して観光地にしたら、別荘が騒がしくなるから。二人で籠るのにぴったりの建物なのよ。
広すぎず、狭すぎず。丸太を組んだ造りで、テラスから見る風景が最高だった。少しして落ち着いたら、クラウスと滞在するつもり。
食事を終えた手に保湿用のオイルが塗り込まれ、爪を紅で染めていく。草花の色を利用し、薄い紫に色付けされた。紅は毒々しいし、ピンクより象徴色の紫のほうがドレスに似合うわ。青も使ったドレスだから、色が馴染むでしょう。
着色を終えた爪は、乾くまで動かせない。その間に保湿した肌に別のクリームが塗られた。揉み込む侍女の手が温かくて、眠くなりそうだわ。そういえば、食後だったわね。欠伸をしたいけれど、皺が寄るからダメなの。噛み殺して我慢した。
準備は着々と進み、ドレスを装着していく。着ると表現するより、そのほうが似合うくらい。下から履いたり、上から被ったり。ここでようやく口紅をのせ、髪を整える。最後に宝飾品を飾ったら完成ね。
「ありがとう、エリーゼ。他の皆も感謝するわ」
出来上がりを鏡で確認し、くるりと回って頷いた。結婚式の時より、化粧が鮮やかになった。華やかさを足す意味もあるけれど、夜会だから肌の色が綺麗に見えるように。昼間に行われる結婚式では淡い化粧でも美しく映える。夜は間接照明になるため、全体に暗く見えてしまうの。
「準備は出来ましたか? 私の姫君」
廊下で待っていたクラウスが、微笑んで手を差し伸べる。とても美しいと褒め「ベッドへ引きずり込みたい」なんて言い出した。その冗談、とても楽しいわ。
化粧は仮面、あまり表情を動かすと崩れやすくなるのよ。そう伝えて、彼の手を取った。中の宮の東側から、大広間へ向かう。開いている扉の前を通り過ぎるとき、思わず声が漏れた。
「凄いわね」
「なんというか、迫力があります」
正直に言っていいのよ、クラウス。眩しくて派手でしょう? お父様とガブリエラ様が張り切っていたから、ある程度覚悟はしていたわ。でも想像の上を行くのが、あの二人なのね。エスコートされて歩く私は、毅然と顔を上げて進む。
準備された大広間は人が集まっており、かなり賑やかだ。やや離れた控え室へ入れば、二組が優雅にお茶を飲んでいた。ルヴィ兄様とマルグリットは宮殿の主だからわかる。フォルト兄様とアデリナも、一時的に奥の宮に滞在しているから当然ね。
エック兄様達はどうしたのかしら? ガブリエラ様達も遅れているわね。




