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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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20.約束を果たそう ***SIDEエッケハルト

 可愛い末姫ヴィクトーリアは、僕達にとって大切な存在だ。役に立ちたいと言われなければ、彼女を国外へ出す選択はなかった。少なくとも、トリアに説得されるまで、僕はあの婚姻に反対した。根負けしたあの日の僕を、殴り倒したいと思うくらいには、後悔が胸を満たしている。


 カリスマ性と人誑しの兄、野生の勘と武力に優れた弟。間に挟まれた僕の取り柄は、策略に長けていること。知力はあるが、それ以外の部分では兄弟に劣る。優秀な人を魅了し引き抜くことも、圧倒的な武力で敵を捩じ伏せることも、僕には不可能だった。


 僕達の能力をバランス良く兼ね備え、美しい外見まで持つ妹トリアは、政略で隣国へ嫁ぐと決めた。その決断は説得で覆せず……僕は一つの約束を提示した。ようやく条件を満たし、その約束が発動する。


「愚か者で助かりました」


 肩を竦めて賛否を避ける兄上は、ワイングラスを傾ける。執務室では酒を飲まない彼は、僕の私室でゆったりと足を組み直した。


「先は見えていたと思う。あの男には食指が動かなかったから」


 私が興味を持てない男に、トリアの夫が務まるはずはない。そういえば、兄上もトリアの結婚に反対していたか。いや……考えれば三人が全員反対していたのだ。国のためと押し切る彼女に弱い僕達は、最後はトリアの意思を尊重した。その結果がこれなら、国を挙げて名誉の回復を行うのみ。


「もう手を打ったんだろう?」


「当然です。即日、各国へ使者を出しました」


 すでにいくつかは返答があった。属国はすべて、我がリヒター帝国を支持すると表明している。ただ……厄介な国が無言を貫いていた。どうやらこの件に関わっているらしい。地図を広げ、兄上の酒のつまみが載った皿で丸まるのを防いだ。中に盛られたナッツとチーズを、彼の指先が摘まんで並べる。


「ここが怪しい、だろ?」


 知っているぞ、そんな顔で兄上が笑う。ワイングラスの赤を飲み干し、隣の瓶を手に取った。今度は白を注ぐのか。グラスを交換しなさいと注意して、飲まなかった自分の白ワインを差し出す。


「おお、飲まないのか」


 真剣に策を練っているときに酒を飲むのは、兄上くらいです。文句を言えば、悪いと言いながらも大笑いする。絡み酒ではないだけマシだった。


「この国は落としましたよ」


 チーズが置かれた国を示す。内部崩壊させたブリュート王国を示すチーズを、兄上は摘まんで食べてしまった。続いてプロイス王国のナッツを口に放り込む。残っているのは、まだ返答のない三つの王国だった。


 無能を自称する兄だが、人の才能を見極め口説き落とす術に長けている。そのため皇宮内は兄上の箱庭だった。連れ帰った者は、漏れなく皇帝に忠誠を誓う。使者の持ち帰った返答を知っているのも、そのせいだろう。腹立たしさや苛立ちはなかった。


 それぞれが得意な分野を利用して、互いの才能を活かしている。その中心に立つのが、妹ヴィクトーリアだった。あの子が口にすれば、全員が協力して結果を捧げる。仲の良い兄弟を彼女が望むから、そのように振る舞っているのだ。


「アディソン王国には、そもそも使者など出していません」


 アディソン王国から見て東側が我が帝国、反対の西側にあるデーンズ王国は返答がない。リヒター帝国に匹敵する大きな領土を持つ国だった。国交はあるが、ほぼ繋がりがない。間に挟まるアディソン王国は、小さな楕円で描かれていた。その上に空のワイングラスを載せる。


「黒幕の可能性がありますね」


「私と意見が一致したな」


 兄は飲み干した白ワインのグラスを、デーンズ王国の上に置いた。付き合いがない相手は読みづらいが、落とすに問題はない。夜が白々と明けるまで、兄上と戦盤に似た策略を重ねた。

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― 新着の感想 ―
トリアの一番の能力は兄弟円満かも? 溺愛しまくり能力高い兄達のせいで男見る目ゼロかつヤンデレレベルが普通と思ってそう 普通に良い相手いても麻痺してるから分からなかった可能性大 元夫は色々全部話せばなん…
こっそり黒幕の国、もう割れた(笑) 一瞬、エック兄様が婚姻届け未提出の黒幕かと思いました(笑) トリアを国に戻しやすいように…冤罪ホントにごめん(`・ω・´) トリアは男見る目シビアそうですよね。個性…
「友邦の、拉致された幼い姫を救出するのだ!」 って口実作りなどでしょうか。 その場合、やらかした当事国としても、「婚姻はしていないが、こどもの認知はしている」なども有り得ます。 なんにせよ、ただの愚行…
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