16.絶対に勝つ! *** SIDEモーリス
単独で飛び込んだのは無謀だったか。だが追いつけるかもしれないと、兄王への連絡の手間も惜しんで飛び出した。馬に乗って走り、途中で軍の馬に乗り換える。ほぼ寝ずに走ったが、彼女に追いつくことはなかった。
街道が混み始め、騎士団長の任務だと順番を飛ばす。先へ先へ、進んだ先で国境が封鎖されていた。ゆっくりと進んでいるが、ほぼ動かない。これが混雑の原因か。おそらくヴィクトーリアの兄達による嫌がらせだろう。
「どけっ! アディソン王国、騎士団長スチュアート公爵である」
国王の異母弟、スチュアート公爵、騎士団長。どれか一つでも十分な通行手形だ。そう思ったのに、停止するよう警告された。腹立たしさと苛立ちで馬を走らせる。まさか、射掛けてくるとは!
「くそっ、王国と戦争をする気か!」
叫ぶも、周囲を兵士に囲まれる。そこへ数人の騎士が現れ、呆れ顔で吐き捨てた。
「なんて迷惑な奴だ。おい、地下牢が空いてたな? 迎えがあるまで、放り込んでおけ」
「迎えなんて来るのか?」
「知らん。元帥閣下に報告だけしておこう」
抵抗しようと剣を抜くも、あっさり弾かれた。王国一と言われた俺の剣技が、及ばないだと? 驚愕する俺は武器を奪われ、装備を外され、身一つで地下牢へ投げ込まれる。冷たい石牢で数日、食事の運ばれてくる時間で日を数えた。
外の光が届かない牢は、狂いそうなほど居心地が悪かった。ベッドはあり、シーツは清潔だ。食事や水も十分に与えられた。それでも自由がないだけで、苛立ちが募る。治療も騎士同伴で、逃げ出す隙がなかった。こんな場所で時間を奪われるわけにいかないのに。
「おう、元気そうで……腹立たしいことに、至れり尽くせりだな」
足音高らかに現れた男は、背にマントが揺れていた。ヴィクトーリアの兄の一人……確か三番目か。武芸に秀でた男だと聞いている。睨みつけた俺に、彼は嫌な感じの笑みを浮かべた。
「随分と舐めた真似してくれたようだ。だが、一つだけ礼を言っておく。トリアを返してくれて、ありがとうな」
カッとなった。返してなどいない。貴様らが奪ったのだろう! そんな意味合いの叫びを投げつけ、牢の檻を掴んで暴れた。届かない腕を伸ばし、痛む足を踏ん張って、喉の痛みも気にせず騒ぐ。
冷めた目で俺を見ていた元帥は、口元を歪めた。
「なあ、出たいんだろ? 俺と戦って勝てたら、国境を越えていいぞ。だが負けたら……」
「戦ってやる」
元帥の言葉を遮って、俺は枯れた声で断言する。
「負けた時の条件を聞かなくていいのか?」
付き添う騎士が眉根を寄せ「元帥閣下、おやめください」と止めに入った。俺は強い、だから恐れているのだ。そう感じた。きっと国境警備の騎士に捕まった時は、矢が刺さっていたからだ。
「構わない、俺が勝つ」
自信満々に言い放った。にやりと笑った元帥の顔に、背筋が凍るような恐ろしさを覚える。だが引く気はなかった。ヴィクトーリアは俺の女だ、絶対に取り返す! その一心だった。
手錠付きだが、国境警備の砦にある訓練場へ出る。久しぶりに浴びた日差しは、痛いくらいだ。眩しさに目が慣れるまで、少しかかった。その間、彼らはゆったりと準備を整える。
用意されたのは訓練用の剣、刃の潰れた金属製だった。切れないが、当たれば骨折は覚悟するようだろう。ここでようやく手錠が外された。
「先手を譲ってやる、さっさとかかってこい」
構えもせずに促す元帥に、予備動作なく飛びかかった。絶対に勝つ!




