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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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15.なぜバレた? ***SIDEモーリス

 あの日、屋敷に戻って驚いた。三日の出勤で二日の休み、普段通りのスケジュールだ。把握する妻ヴィクトーリアは、俺を見送ってすぐ動いたのか。残っていたのは、この屋敷の執事だけだ。侍女なども半数以上が消えており、残った使用人も紹介状が出ている。いつでも退職可能な状態だった。


「何が……」


「奥様……いえ、リヒター帝国皇妹殿下より伝言をお預かりしております。騙した罪はあなた一人で贖いきれませんよ、と」


 お伝えしました。そう締め括り、執事は離職を申し出る。これを伝えるために残ったのだろう。許可を出さず呆然としている俺を置いて、踵を返した。誰もいない屋敷の部屋を順番に確認する。


 誰もいない。しんと静かな屋敷は、かつてないほど広く感じられた。妻の使っていた部屋も、娘が眠った部屋も、よそよそしく冷たい。夫婦の寝室には、整えられたベッドが残っていた。ここだけは普段通りだ。俺の私物のみ残され、ベッドの上に小さな箱が置かれていた。


 宝飾品を入れる黒いビロードの箱に「嘘だ」と呟きが漏れる。開けた手から箱が転がり落ちる。ベッドのシーツに落ちたのは、指輪が一つ。剣を扱うため鎖に通して首に掛けた俺と対の指輪が、カーテン越しの光を弾いた。


「なぜだ?」


 バレるはずがない。国王陛下はきちんと手配したと言った。強大なリヒター帝国から人質の姫を得て、内側から食い荒らす。だからバレないよう慎重に周囲を固め、妊娠した彼女を心配するフリで閉じ込めた。社交界から隔絶し、真綿で包むように……。


 俺は彼女に一目惚れした。どうしても欲しいが、俺には厄介な性質がある。大切なものをしまい込んで、こっそり愛でる。誰かに奪われないよう隠すのだ。この衝動は激しく、周囲と騒動を起こした。仲の良い友人を監禁して叱られ、気に入った物を人から奪う。すべてもみ消してきたのは腹違いの兄上だ。


 兄上には何度も助けられた恩がある。剣術も執着した結果、誰より練習して上達したに過ぎなかった。厄介な存在なのに、国王になった兄上は俺を許す。そんな中、二人の利害が一致した。兄上は隣国の豊かな実りや鉱山が欲しい、俺は美しい姫君に一目惚れした。


 俺は彼女を得るが、正式な婚姻はしない。これは兄上の側の事情らしい。詳しいことを理解する必要はなかった。いつだって彼は俺の味方なのだ。言われた通り彼女を娶り、婚姻届が出ていないことを隠した。


 俺はヴィクトーリアを逃がしたくないから、早く身籠らせる必要がある。身重なら外出しないし、子が生まれたら忙しいはずだ。社交を休ませる理由になった。兄上も別の理由で、彼女が社交を行わないことを望んだ。婚姻届の話がどこからか耳に入らないよう、己の置かれた立場を悟らせないよう。


 すべてうまく行っていた。何もかも想定通りだったのだ。どこでバレた? 何が原因だ。いや、それより……彼女を連れ戻さなくては! 慌てて手荷物を整える。遠征に出る時と同じ、旅に必要な物は分かっていた。身軽に手早く揃える。


「いってくる……、っ!」


 見送る彼女の姿はない。当たり前なのに胸が痛んだ。いつもの癖で声に出し、音のない寝室を振り返る。家具の日焼け防止の布が白く……やけに目に沁みた。

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― 新着の感想 ―
あれっ?娘の性癖と頭の出来が心配になってきた。 変なとこで気質って似たりするからベビーが変な進化しないといいけど。 皇族に脈々と受け継がれるストーカー気質と監禁癖とか嫌だなぁ… 皇女様が参謀適性、偽…
おおう、国ごと駄目だったパターンかぁ? これは王族まるごと取っ替えなきゃかなぁ……?
大事なものは誰の目にも触れさせたくない隠しておきたいっていう性癖は男女問わず一定数存在するけど基本バッドエンド要素だからなぁ。自分から姫様にその性癖込みで真っ正直に告白していれば旦那を上手い事転がしつ…
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