表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/141

136.夫となる男を連れた凱旋だ ***SIDEアデリナ

 力尽くで構わないと言われた。浮かれながら、旅支度を整える。イエンチュ王国へは一日半の道のりだった。夫と定めた男を見上げる。フォルクハルト、リヒター帝国の皇帝の末弟だと聞いた。あの女傑ガブリエラ様のご子息だが……他の女が産んだ子で血は繋がらないようだ。


 ガブリエラ様の実子であれば、なおよかったが……あの美しいトリアも実のお子ではないと聞く。ならば構わん。トリアと義理の姉妹として繋がれるのだ。フォルクハルトの強さは認めていた。この男になら今後の人生と身を任せても後悔しないだろう。


 やはり男は、強ければ強いほどいい。イエンチュの部族を総浚いした結果、外へ探しに出たのは正解だったな。皇族だから馬車に乗ってぞろぞろと行列を作ると思えば、少数精鋭で騎乗にて移動と告げられた。こういうところも好ましい。


「アデリナ、準備ができたか?」


「問題ない」


 女性らしくないあたしを、それでも妻にすると言い切った。鍛えて武骨な手足、指、硬い手のひら、太い胴回り……何もかもが輝いて見える。実家への凱旋だ。周囲の女戦士どもに自慢してやろう。にやりと笑い、愛馬に跨った。


 この砦の厩は居心地がよかったらしく、毛艶も機嫌もいい。愛馬の首をぽんぽんと叩き、フォルクハルトの指示を待った。あたしより強い男に従うのは、屈辱ではなく誇りだ。彼の馬が地を蹴るのを見届け、愛馬の手綱を引いた。同行する騎士は五人ほど、皆、立派な体格をしている。


 連れて行くと、女どもが群がりそうだな。夫フォルクハルトに粉を掛けたら叩きのめすが、それ以外は大目に見てやろうか。一日半の距離を、ほぼ一日に短縮して走る。馬の休憩以外は馬上にあり、かなり急ぎの強行軍だった。


「早くトリアに会いたいからな」


「わかった」


 同じ気持ちだ。頷きあい、視線を交わすだけで伝わる。父の言葉は誠だった。同じレベルに達した者同士、意思の疎通に言葉は不要だと。戦い、剣先を交え、ともに眠れば兄弟も同じ。教わった言葉が、実感となって胸に広がった。


 イエンチュ王国の国境を示す塀は存在しない。どこから攻め込まれても防いでみせる! その意気込みと、同盟国への信頼の表れだ。相反するようだが、どちらも本心だった。信頼する相手であっても、卑怯な不意打ちがあれば受けて立つ。


 集落が見えてきた。思い出したのは、馬泥棒の話だ。ガブリエラ様もトリアも、不快だと表情を曇らせた。おそらく、死体を持ち去ったのはイエンチュの民だろう。どの部族かわからないが、必ず取り戻す。そして褒めてもらうのだ!


 馬の速度を上げて、フォルクハルトの前に出た。


「あたしが先に立つ。ここはあたしの縄張りだからな」


「よし、任せる!」


 驚いて振り返った。あたしに任せる、と? ここは敵地も同然なのに、あたしを信頼しているのか。期待されたら応えるのが戦士の流儀。犯人を見つけて、あんたに引き渡してみせよう。


「戻ったのか? 後ろの連中は……」


「あたしの夫と、その従者だ。この国から恥知らずが出た。探すから手伝え」


 第三の部族タラバンテではないが、共闘関係にある第五の部族シャリアの男だ。あたしの夫になると宣言して戦い、敗れた。フォルクハルトを見て驚いた顔をするが、頷いて並走する。馬上で簡単な説明を行い、シャリアの長へ取次ぎを願う。


 どの種族が相手でも勝って、トリアに褒めてもらうのだ。フォルクハルトも撫でてくれるかもしれない。普通の女のように、甘やかしてほしかった。報酬として強請ってみよう。浮かれる気持ちを抑えながら、シャリアの町の門をくぐった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヴィクトリア一択だと思ってたけど、やっぱりわんこ属性だから夫にも甘やかして欲しいと思う所が更に可愛いですね このまま頑張ってすぐ見つけられそうです!
既にラブラブで信頼しあってる!素敵な夫婦ですね!結婚式はまだだけど。 馬泥棒の仲間は、ボコボコにされそうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ