132.二人の共同作業ね
消えた死体を探す仕事は、騎士達が嬉々として受け入れた。というのも、フォルト兄様が荒れていて、鍛錬の相手をするのが危険だからよ。本来は兵士の雑事なのに、大喜びで出かけていくんですもの。フォルト兄様は朝から何をしでかしたのかしら?
クラウスの確認によれば、やや殺気立っていたようで……正面から対峙するのが怖いと。その程度でよかったわ。もし八つ当たりでケガでもさせていたら、お仕置きが必要だもの。ガブリエラ様にすでに叱られ、しょんぼりしながら朝食の席についた。
「フォルト兄様にお願いがありますの」
「任せろ!」
嬉しそうな声と表情に、笑顔で告げた。
「イエンチュ王国と話をつけて下さらない?」
「そういうのは、義母上の仕事だろう。俺がやると力尽くになるが……」
「ええ、力尽くで構いません」
フォルト兄様の目が輝く。ある意味、フォルト兄様は生まれる国を間違えた気がするわ。イエンチュ王国で、ガブリエラ様が実母なら……違和感なく溶け込めたと思う。頑張るぞと気合いを入れるフォルト兄様を見守りながら、クラウスの差し出す卵料理に手を付けた。
上部が綺麗にカットされた半熟の卵を、スプーンで贅沢に頂く。すると次はパンを差し出された。至れり尽くせりというか、従者のような真似をして。睨むと、クラウスは微笑んだ。
「何をしているの」
「トリア様の身を作る食事を、私の手で捧げたいと思いまして」
フォルト兄様の隣に座ったアデリナが、そわそわし始める。ダメよと制止して、大人しく食事を続けるよう伝えた。私の隣に飛んできて、手で食べさせそうなんだもの。
「ガブリエラ様はどうなさったのかしら?」
「イエンチュ王国の弟君へ文を出されると聞いております」
エリーゼがすぐに答える。こういった情報を仕入れるのも、侍女の仕事の一つ。伝言を預かったというより、ガブリエラ様の世話をする侍女に聞いた感じね。
ガブリエラ様の実家は、王を輩出した名家だった。馬泥棒を探るなら最適でしょう。顔も利くし、発言権も強い。他国に迷惑をかけた事例なら、他の部族も異議を唱えないはず。彼らにとって、名誉を著しく棄損する事件だもの。協力的でしょうね。
「トリア、いつから出かけられるのだ?」
「フォルト兄様の準備が整ったら、いつでも。ガブリエラ様には挨拶をしてくださいね。それと、アデリナを伴うこと」
「わかった!」
「嫌だ」
即答で断ったのは、アデリナよ。私の近くにいたいと駄々を捏ねる。むっとした顔をされると迫力があるわ。でも拗ねた大型犬みたいで可愛いと思ってしまう。
「上手におつかいができたら、あなたの好きなドレスを着てあげるわ。三日間でどうかしら?」
「……選んでいいのか?!」
「くそっ、俺も嫌だと言えばよかった」
興奮するアデリナの隣で、悔しそうに拳を握るフォルト兄様。仕方ないのでフォルト兄様にも同じ条件を出した。私は別に何を着てもいいのよ。提示するドレスを事前に選択しておけば、奇妙な恰好をさせられる心配は要らない。
まだ夫婦ではないけれど、初の共同作業ね。すごい勢いで朝食を平らげ、準備をしに自室へ戻っていった。入れ替わりでガブリエラ様が入室し、実家に手紙を出す話を始める。
「フォルト兄様とアデリナを遣わすつもりです。ガブリエラ様はご一緒に戻りましょう」
「砦はどうする?」
カトラリーの使い方は正しいし、動きも綺麗なのに……驚く速さで料理が減っていく。ガブリエラ様はあっという間に食べ終わり、食後のお茶を口にした。
「騎士ティム・リールに砦を任せます。将軍職に見合う実力者ですよ」
クラウスは淡々と過去の実績を並べた。確かに十分な強さと指揮能力がありそう。ティムに新しい地位を与える話は、すでにエック兄様達と打ち合わせ済みだ。ハイノも将軍に推薦しておいた。将軍は元帥と違って、あと何人か増やしてもいいわ。