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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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13.留守の間に増えた顔は要注意ね

「派手にやったらしいな」


 イングリットを抱いて庭を見ているところへ、ルヴィ兄様が顔を出した。私室として用意されたのは、以前私が暮らしていた部屋だ。日当たりがよく、風も通る。宮殿の奥にあるため、表の騒々しさは届かなかった。


「どんな噂をお聞きになったのかしら」


「赤いカメリアが一輪落ちた、と。それより、この部屋でよかったのか? 母上の部屋も空いているが」


 ルヴィ兄様の言う「母上」は、私の義母に当たる。皇妃として側妃三人を監督し、それぞれに子を産ませた有能な人だ。そのお方の部屋を私が使うなど、畏れ多い。私の返答に、ルヴィ兄様は困ったような顔で笑った。


 イングリットは乳も飲み終わり、ぐっすり眠っている。長椅子に腰掛ける私は、わずかに椅子の左側を空けた。断りを入れたルヴィ兄様が座る。並んでイングリットの顔を眺め、しばらく口を噤んだ。沈黙が重くないのは、雰囲気が柔らかいからね。


「広間でカメリアの扇を使った美女のお陰で、身の内に潜む裏切り者が見つかった。どうして彼だと思った?」


「ルヴィ兄様は質問ばかり。少しは自身でお考えになって」


 頭の回転が速いエック兄様と違い、素直に問うのがルヴィ兄様のいいところ。家族に甘く、けれど法や秩序は順守する。公平で穏やかな人と思われていた。貴族からの信頼も篤く、人を誑かす才能に長けた兄だ。しばらく宙を睨んで、肩を竦めた。


「私が思いつくのは、可愛いトリアがあの男の顔を知らなかったことぐらいだ」


「ええ」


 私が嫁ぐ前、戦争突入の可能性がある隣国との婚姻はなかった。国境付近の国民でさえ、交流を絶ったほど。その状況で、貴族が敵国と婚姻する危険を冒すはずがない。


 皇女である私は、貴族全員の顔と名前を知っていた。つまり、顔を知らない貴族が広間にいれば……他国から嫁いだり婿入りした可能性が高い。私が隣国に滞在して二年余り、留守の間に増えた顔は用心の対象になるわ。


 私が嫁いだ形を見せたことで、戦争は回避された。当然、貴族や民の間でも交流が始まる。紛れ込むなら、最高のタイミングだった。


「それが目的か?」


「要因は一つではないと思っておりますの。それぞれが動いた結果、事態が混乱して絡まり、予想外の方向へ向かったのだと思います」


 スチュアート公爵を引き摺り下ろしたい勢力、先代王妃の思惑、義兄と思っていた現国王の本音……愚かな公爵も含めて。それぞれが身勝手に振る舞い、事態を複雑にした。


「ふむ、まったくわからん。エックといい、トリアといい、頭が良すぎるのも疲れそうだ」


「お褒めいただき光栄ですわ」


 腕の中でイングリットが動く。視線を下げれば、彼女は唇を動かしていた。まるで話に加わろうとするように。


「ところで、ルヴィ兄様。この子を養女にして頂いて助かりましたが……べランジェール様の許可は貰いましたの?」


「いや?」


 婚約者の許可も得ず、未婚の兄様が養子縁組をした。これは……然るべき事案よね。事後承諾でも構わないから、プロイス王国のベランジェール姫へ連絡するよう言い聞かせた。

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― 新着の感想 ―
そりゃ説教案件ですよ兄様(笑)
 ルヴィ兄様のポンコツっぷりに唖然です。危うく三行半を突き付けらるところでした? 笑 
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