121.思わぬ拾い物だ ***ガブリエラ
思わぬ拾い物だ! 見合うイエンチュの男達を悉く倒したというのも、大げさな表現ではない。全盛期の私に及ばぬまでも、立派な実力の持ち主だった。これでは夫が見つからず、苦労したであろう。イエンチュの女戦士は、誰しも己に勝てる男を求める。
回転する動きで右手の刀で攻撃を受け、左の刀を突き出した。長い槍の中程を握ったアデリナに十分届く。癖であろうが、槍の利点を殺す握り方だった。彼女の師匠ベンハミンがこの持ち方をするのは、横に薙ぎ払う動きを得意とするためだ。三叉槍でなければ、問題なかったが……。
弱点を見極めて、彼女の鼻先に刃を突き付ける。あと指二本分押せば、刺さる位置で止めた。
「く、参りましたっ!」
三叉槍は厄介だが、ある意味、ただの槍で攻撃されたほうがやりにくい。というのも、突き刺すことに特化した武器だからだ。今回は得意な武器を使うよう伝えたため、鋭い刃はそのままだった。槍の突き刺す動きは直線的になる。いっそ大きな刀の付いた槍のほうが、動きのパターンは多いほどだ。
単調な動きでも勝てるほど、彼女の実力は抜きん出ていた。これならば、フォルトと戦わせてもいい勝負になるはずだ。戦闘に特化したフォルトは、よく言えば強いが……脳まで筋肉に覆われている。あれをフォローする賢い女を求めたが、なかなか相性までは読み切れなかった。
アデリナならば、隣に立って戦うことができる。トリアが戻ってきた今なら、フォルトに賢い妻は不要なのだ。副官ハイノに将軍職をくれて、補佐させれば十分だった。平和な世が続くなら、フォルトの憂さ晴らしを手伝える女性のほうが好ましいだろう。
「アデリナ、夫候補に会わせてやろう。しばらく滞在するがよい」
驚いた顔で固まったアデリナに首を傾げ、ああ……と思い至る。私が名を呼んだからか。イエンチュ王国での懐かしい習慣を、踏襲していたようだ。特に意識してのことではないが、彼女は認められたと感激している様子だった。
「っ、あなた様の御名を口にする栄誉を……」
「ああ、構わぬ。なかなか楽しい打ち合いであった」
殺し合いでも決闘でもない。だから遺恨も残さぬ。明言したことで、アデリナは口角を持ち上げてにやりと笑った。皇妃にでもなるなら問題だが、フォルトの嫁なら構わぬか。トリアが良く面倒を見るだろう。あの子はフォルトのような者を惹きつける。
「フォルトに戻るよう伝令を出せ。あて先はハイノだ」
「承知いたしました」
騎士達が動き出し、盛大な拍手に見送られて歩き出す。アデリナは武器を当然のように担いでついてきた。他国の武人が帝国の砦で武器を持つことは、保安面から禁止してきた。問う眼差しに、首を横に振った。アデリナならば構わない。そう示して、砦の内側にある居住区へ向かった。
「この部屋を使うがよい。私の部屋はその先だ」
信用していると示すため、自室の位置も伝えた。ぐるりと部屋を見回し、不思議そうにクローゼットの中を覗く。三叉槍をベッド脇に立てかけ、手を離した。アデリナも私への信用を示そうとしている。イエンチュ人なら当たり前の習慣が、どこか擽ったく感じた。
それだけ長い間、実家に顔を出していない。イエンチュ人と接する機会も少なかった。落ち着いたら、夫マインラートを連れて実家に顔を出すのも悪くない。軟弱だが、私がついていれば殺されることもあるまい。
「ガブリエラ様、これは……どうやって使う、のだ?」
ひらひらと透ける室内着を見つけ、心底不思議そうなアデリナが首を傾げた。何も知らぬ幼子のようだ。身を守ることもできない透けた服など、彼女には理解不能だろう。やはり実を求めるフォルトと相性がよさそうだ。
「夫と肌を合わせる際に着るものじゃ」
「……このように、無防備な……」
ふふっ、堪えようとしたが我慢できずに笑ってしまった。この国に来たばかりの私と、まったく同じ反応をする! 存外、よい妃になるやもしれんぞ?
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