表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/120

111.ジルヴィアはどうしたの

 ガブリエラ様とフォルト兄様へ手紙を出す。どちらも私が書くことになった。お父様に関しては、手紙がなくてもガブリエラ様に教えてもらえるはずよ。国境の砦には明日にでも到着するけれど、フォルト兄様はもう少しかかるわね。


 騎士団の精鋭が馬を乗り継いで走らせても、三日目の朝が最短でしょう。ガブリエラ様のところへ立ち寄る女性が、伝令より早く到着するはずがない。そのため急ぎといっても、緊急扱いにはしなかった。


 お茶会を終えた私の手を支えるクラウスに、首を傾げる。


「どこで、その女性を知ったの?」


「イエンチュ王国に伝手がありまして」


 情報屋が情報源を隠すのは当然よ。でも気になって口から出てしまったの。イエンチュ王国は、様々な部族の集団で王は持ち回りなの。王への挑戦は五年ごとに認められており、毎回、立候補者が各部族から選出される。部族内で事前に戦って候補者を絞るから、全部の部族が一人ずつ代表を出す形ね。


 優勝者が王と戦い、勝てば王位が移動する。力がすべてのわかりやすい構図だった。ある意味、洗練されているのかもしれない。王を出した部族は、多少発言権が強くなる程度の恩恵しかないの。でも一族から王を出すことは誉れであり、親兄弟は一族内での立場が強まる。


 ガブリエラ様は翌年の優勝候補だったのよ。よくお父様に嫁いでくれたわ。なんでも、弟君に挑戦権を譲ったと聞く。一回は決勝戦で負けたものの、五年後にリベンジして王位に就いた。二期十年務めて、自ら退位したはず。


 記憶を探りながら、どこの部族と繋がっているのかしら? とクラウスを見つめた。


「そのようなお顔をされても、情報源は明かせません」


「そうよね」


 にっこり笑って話を切った。失礼なことをしてしまったわ。そこでふと気づく。娘のジルヴィアをお茶会に連れてくるよう命じたのに、アンナはどうしたの? 宮殿内が騒がしい感じではないから……大丈夫よ。あの子がぐずっただけ。


 連れてこなかった理由を頭の中に思い浮かべるも、不安が膨らんだ。手を引くクラウスより前に出る足が、焦りを示す。


「何かございましたか」


「ジルヴィアが、来なかったでしょう? それで……」


「では、失礼して……急ぎましょう」


 重ねた手をきゅっと握り、引き寄せられる。急いでいた足は素直に彼に従った。たたらを踏む前に、ひょいっと抱き上げられる。今までの速度が嘘のように、クラウスは走り始めた。あまりに揺れるので、首に腕を回してしがみつく。


 怖いのに、落とされる心配はしなかった。支える腕は逞しく、回された腕の位置も適切よ。強張った体を深呼吸で緩めた。庭から廊下に入ると、さらに速度が上がる。すたすたと進む先に、見慣れた扉があった。


「扉を開けてください」


「わかったわ」


 首に回した腕を伸ばし、近づいたノブを回す。そのまま肩で押したクラウスが、滑るように室内へ入った。


「っ! うそ!!」


 室内は荒れている。開けっ放しの窓から風が入ったのか、書類が床に散らばっていた。何かが盗まれたとしても、すぐには判断できない状態よ。それ以上に、隣へ繋がる扉が揺れる事実に目を見開いた。


「おろ……」


「騎士を呼びます」


 私を下したクラウスの声に、はっとする。そうよ、入り口に警備がいたわ。それが消えていて、閉まっていた窓や扉が開けっ放し。まだ敵がいたら……足元の書類を踏みながら、机の裏に隠した短剣を引き抜いた。鞘を机の上に残し、抜き身で進む。


 鼓動がうるさくて、周囲の音を聞き洩らしてしまいそう。自分が攻撃されても、ここまで怖くないわ。でも……ジルヴィアは違う。無力で何もできず、襲われたら身を守れない。あの子が傷ついていませんように。泣き声が聞こえないのは、眠っているから。アンナは何か理由があって……。


 何もなかったと笑える状況を望みながら、風で揺れる扉を押す。左右に目を配り、陰になる場所に注意しながら踏み込んだ。正面に倒れているのは、アンナ? ベビーベッドに駆け寄り、中を覗いて膝から崩れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
赤ちゃん戦死ですね。
 は? 近衛や衛兵はどうしたッ!?
これはないわー まだ何が起きているのかわからないけど、他国を圧倒する軍事力と知略、情報網を持っていて運用するトップは歴代最高レベルの四兄妹なのに 簡単に王宮深部まで侵入許して事に及ばせるとか 他国と同…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ