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電車に乗ったら、次の駅が『過去』だった。(白木編)

作者: 白木

 こんなはずじゃなかった――。


 満員電車からホームに雪崩出る人々を見て、わたしは思う。


 同時に涙で視界が滲んで来た。


 駄目だ、こんな所で泣いたら、変な人だと思われる。


 ――いや、誰もわたしなんて見てないか……。


「早くしろよ」


 後ろの人にイライラした声で言われて、まだまばらに人が出てくる電車に乗り込んだ。


 背後からどんどん乗客が続く。こんなに並んでいたのかと驚くほど。


 発車のサイン音にすら動じず、次から次へ乗り込む人に押されて、自分の意志などない荷物のように車内奥に入っていった。


 二十年前の今日、わたしは何をしていたっけ? ふとそんなことを思った。


 希望に満ちていた学生時代。


 あの頃は毎日、大勢の知らない人に愛想笑いと上辺だけの言葉を並べて、孤独に戦う日々など想像もしていなかった。


 大人になるというのは自分の翼で行き先を決められることだと思っていた。


 そう、今乗っているような行き先の指定された電車から降りて――。



「次の停車駅は、“一年前”、“一年前”です。お降りのお客様はお忘れ物ないよう――』



 え? 疲れすぎて幻聴まで聞こえるようになったか。思ったより重症だ。


 と、電車がスピードを落とし、ホームに入り込む。


 ここは――。


 いつもの地下鉄駅だ。


 でも――窓から見える掲示板の駅名が『一年前』になっている。


 更に前後の駅を示すそのしたのサイン――『現在』と『二年前』・・・・・・?


 どういうことだ。時間を移動してるなんて、そんなことないよな?


 周囲の人の表情だっていつもと変わりなく、死んだような目で――。


 そう……まさに死んだような目で数人が電車を降りた。


♢♢


 あの後、『十年前』で大勢の人が降りて、『二十年前』で半分くらいになった。


 空いた座席に座って、思う。このままだと、子どもにまで戻ってしまう。


 そろそろ降りないと――。残っている乗客もほとんどが優先席が似合うような高齢者だ。


 でも、身体が動かない。

 

 わたしは――。


『三十三年前』そこで降りた。


 ドアを出て行くわたしに乗客が優しい目を向けた。


 初めて、他の乗客も人間だったと思い出す。


 わたしが生まれる一年前の駅だ。


 ここで降りたら、わたしは生まれ変われる。文字通り、ゼロからスタートできる。


 そうしたら、今度は間違えない。今度こそは――。


「あなたもここで降りてしまったんですね」


 駅員に声を掛けられた。その顔が少し寂しそうだ。


 さあ、わたしは生まれ変わるんだ――。スキップするように軽やかな足取りで改札に向った。その先がどうなっているのかも知らずに……。


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