王命の重さ
今を遡る1年前にある悲劇が起きた。
当時の王太子とその取り巻きである令息達が火事により焼け死んだ。
場所は貴族学院の古校舎で滅多に人が来る事が無かった。
何故、そこに王太子達がいたかは分からないし出火した原因も分からない。
犠牲者となった令息達の親は国の重要なポストに付いていたが失職し隠居した。
謎が多く残っているこの悲劇だが関係者達は多くを語らなかった。
ただ、ある貴族は一言こう呟いた。
『天命である』と……。
「……で、どう思う?」
「どう思う、て何を?」
「王太子様達が何故死んだか、て事よ」
とあるカフェで一組の男女が向かい合って話していた。
男は文官であり女は新聞記者、同じ街で育った所謂幼馴染である。
「この真相がわかったらスクープだと思うんだけどねぇ」
「あのさ、関係者は口を閉ざしているんだろ? それなのにあること無いこと書いたら首が飛ぶぞ?」
「わかってるよ、だから仮定の話として城勤めのレオンの意見を聞きたいのよ」
レオンと言われた青年は苦笑いをした。
「はぁ~……、あくまで城内で噂されている話だぞ?」
「噂? どんな噂なの?」
女性は身を乗り出してきた。
「落ち着けよ……、当時王太子は公爵令嬢と婚約していた。でも、その関係は良くなかった」
「仲が悪かったの?」
「一方的に王太子が嫌っていたらしい、『タイプじゃない』とか『俺にはもっと相応しい女性がいるはずだ』とか言っていたそうだ」
「うわぁ~……、何様のつもり、て王太子か」
「でも婚約は王命だから逆らう事は出来ない、でも貴族学院で王太子はとある男爵令嬢と出会ってしまい恋をしてしまったんだ」
「男爵令嬢が王太子と出会う事ってあるの?」
「基本的にはあり得ない、身分の差もあるし普通は周囲の人間が警戒する、でも取り巻き達もその男爵令嬢に夢中になってしまったんだ」
「えぇ~、なんか恋愛小説みたいな展開、だけど婚約者は黙ってなかったんじゃないの?」
「一応注意とかはしていたらしいけど聞く耳は持たなかったそうだ」
「小説だったらそのまま王太子が『真実の愛に目覚めた!』とか言って婚約者を一方的に断罪する展開よね」
「小説だったらな、でも現実は違う。 さっきも言ったけどこの婚約は王命で決まった事なんだ、この王命というのがポイントなんだよ」
「『王様の出した命令であり絶対』である、て学んだ事があるわ」
「そう、絶対なんだよ。王命に背く事は国家反逆罪に相当するんだ、それが例え身内であろうとも」
「えっ、それって……」
「王太子の浮気の件は国王の耳にも当然入っていて注意もしてきたと思う。 でも王太子は聞き入れなかった。 こうなると国王は苦渋の決断をしなければならなかった」
「王命に背いた者の処分……、じゃあ王太子達が焼け死んだのは……」
「多分、処刑されたんだろう、当然取り巻き達も。 親には事前に通知しているだろうな」
「こわ……、あれ?原因になった男爵令嬢は?」
「……記録には残っていないけど少女1人の遺体もあった。 その令嬢の実家は取り潰されていて両親は行方不明だ」
「うわぁ……、やっぱり王族貴族には手を出さない方が良いわね」
「賢明な判断だよ、でも身内を処分しなきゃいけない、という判断をした国王様の想いを考えると……、その件以来王命は余り出てない」
あくまで噂話だぞ、とレオンは言ったが大体事実だろう、と思っている。
城勤めをしていると色んな話が出てくる。
その中で王太子の件もやはり話題になる。
レオンが話したのは先輩から聞いた話である。
その先輩は事件の調査を担当していたので真相は間違いなく知っている。
ただ、城内では勿論出来ないし先輩も飲み屋で話してくれた。
(何処で誰が見てるかわからないからなぁ)
貴族の世界は怖い、そんな事をレオンは思った。