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第1話 5人の子供たち

現代日本が存在する場所とは、大きく異なる世界。


元来この世界は、大中さまざまな王国によって連合が組まれていた人間と、種のトップに絶対的な支配者である魔王が君臨する魔族とで共生をしていた。


しかしある時。


魔族間でじわじわと勢力を広げていた反人間派閥が魔王の説得に成功すると、じきに大勢の魔族軍が人間の王国を襲撃する。


すると人間側と魔族側とによる大規模な戦争が勃発し、世の中は大混乱に陥ってしまった。





『光の国』と呼ばれるソルライク王国。


世界の南に位置し、海に囲まれて自然も多い島国であるここは、1年を通して温暖な気候が続いて晴れ間もかなり多く。


街は目立った犯罪も無く大いに発展しており、中心部ではレンガ造りの建造物が立ち並んで活気に溢れている。


だがそんなソルライク王国でも脅威が存在していた。


「最近の魔族の動きはどうなっておる?」


「はい、ジャヴェンス国王陛下。まだこの島国である王国を襲うには時間がかかるかと。沿岸警備についている兵士からも魔族の目撃報告がございません」


王国の首都・タイオの高台にある、真っ白に染められた巨大な王城。


その一室では、この国の王である老人ジャヴェンスが、最側近である眼鏡をかけた妙齢の女性と言葉を交わしていた。


「そうか・・・しかし予断を許さないからのう・・・」


ジャヴェンスは天井を見上げ、すっかり白髪の増えてきた頭を撫でながら呟く。


「遥か数十年も前に戦争を始めた、あの魔王を倒せるほどの救世主がいきなり現れれば良いのじゃが・・・」


「さすがにそんな都合が良いことなどあり得ないでしょう」


慣れた様子で、呆れた顔をしながらこう返す最側近の女性。しかし彼女はそれから少し考え事をするような表情を浮かべた後、何か思い出したような素振りを見せた。


「しかし。街角にいる占い師の老婆が最近何か言っていたと、少し噂になっておりますが」


「・・・何と?」


「確か、『別世界から転生した5名の魔術師はもうこの国にいる』とか何とか・・・」


それを聞いたジャヴェンスは驚いた様子を見せ、女性に聞き返す。


「ほ、本当か?」


「ええ。しかしそんなものは与太話ですし・・・って、きゃあ!」


すると血相を変えたジャヴェンスは慌ててイスから立ち上がり、彼女の両肩を強く掴んで叫んだ。


「与太話なわけあるか!その占いは本当じゃ!今すぐその占い師をこの城に連れて来い!」


こうしてその占い師の老婆はこの王城に呼ばれ、ジャヴェンスと謁見を果たし、占いを口にした。


彼女が話す内容はこうだ。


『こことは異なる世界で命を落とした5名の魂。それらは前世での記憶を封印され、その代わりに強力な魔力を持って転生した。10年前の夏至の夜に誕生した彼らこそが、巨悪を倒す救世主となる』


この話を聞いたジャヴェンスが急いで指示を出すと、遂にはその日に生まれた子供たちを見つけ出す。


そしてジャヴェンスはその子供たちと家族を王城へと招き入れ、占いの内容や事情を説明。


さらに同席した占い師によって、各々がどの種類の魔術を使える魔術師なのかということも判明した。


最後には「魔王討伐のために・・・この国王ジャヴェンスのもとで直々に教育や鍛錬を行いたい。十分に力を身につけ旅に出るその日まで、王城で面倒を見させてはくれないか」と深く頭を下げる。


まさに驚愕といった様子の面々だったが、国民から圧倒的な支持を得ている国王の頼みとあり、それを受け入れたのだった。





それから数日後。


「お主たち、よくぞここに集まってくれた。これからは余と寝食を共にし、『光の国』の魔術師パーティーの一員として相応しい魔術師になるべく、鍛錬を重ねるのじゃ。良いか?救世主たちよ!」


「「「「「はいっ!」」」」」


白髪が目立つ頭に、少し腰も曲がってしまっている国王・ジャヴェンス。そんな彼の目の前には、5人の子供が背筋を伸ばして立っていた。


彼らは自身の髪と同色のローブを着用し、ジャヴェンスのことをじっと見つめる。


ラクェル。炎魔術師として転生した彼は、肩まで伸びた赤い髪が目立つ美少年。背丈は5人の中で最も高く、しっかり者でもある。

モンブズ。氷魔術師として転生した彼は、水色の髪を短く刈った坊主頭で健康優良児。目立つのは浅黒くがっしりとした体格だ。

レラエ。雷魔術師として転生した彼女は、短い金髪を携える凛とした美少女。サバサバとした雰囲気があり頭も切れそう。

ユーネス。回復魔術師として転生した彼女は、桃色の長い髪を翻す、大人しい様子の女の子。丸い顔と大きく綺麗な瞳が特徴的。


そして・・・。


「(ど、どうしよう・・・大変なことになってしまった・・・)」


フォライド。死霊魔術師として転生した彼は、漆黒で目元が隠れるほど長い前髪がトレードマーク。さらに5名の中で一番小柄な体をしていた・・・のだが。


「(こっちの両親は『国王陛下のもとで魔王を倒すための鍛錬をするんだ』と話していたけど・・・)」


彼について特筆すべきところはその外見ではない。


王城に呼ばれた子供たちは、その全員が別世界で命を落とし、この世界に転生した者。前世での記憶というのはその奥底に封印されているはず。


ところがこの少年は違った。


「(あの時。自分のことをずっとイジメていた幼馴染を殺した後、ボクは逃げて逃げて・・・)」


そう。


彼は前世で幼馴染を襲撃し、警察から逃げる中で崖から転落して命を落とした男なのだ。


彼の魂は、死後どういうわけかフォライドという男児として転生。


繰り返すが、本来ここにいる子供たちは前世での記憶を封印されているはず。ところが彼は、この世界に産み落とされたその時から自身の前世について覚えていたのだ。


だから見知らぬ女性に抱きしめられ、同じく見知らぬ男性から頬を撫でられた際には。彼は大きく困惑しつつも、前世ではとうに忘れていた『無償の愛情』も感じ取れていた。


ああ。この人たちは、ボクの新しい両親なんだ。


不思議とすぐにこう察したフォライドは、まるで西洋的ファンタジー世界のようなソルライク王国で第二の人生を享受していく。


しかしある日、国王から呼ばれて王城へと赴くと、予想だにしていないことを告げられた。


「フォライド。お主は別世界から転生し、魔王を倒すための救世主として選ばれた子なんじゃ。是非とも余の指導を受け、仲間と共に鍛錬をして欲しい」


確かに転生直後から、『魔王』・『魔族』という単語は耳に入っていた。どうやらこの世界には魔王率いる魔族軍が存在しており、様々な王国を攻撃・侵略しているという。


そしてジャヴェンスの話を聞いた彼は、自分が魔王を討伐するための一員であることに大いに驚きながらも、その瞬間はフィクションのような壮大な肩書きに高揚感をも覚える。


しかし。王城で過ごす時が近づくにつれてその気持ちは薄れていき、今では不安気な表情を浮かべているフォライド。


「ボクは救世主なんかじゃない・・・ただの人殺しだよ・・・」


前世の最期をハッキリと覚えている彼は、自分のことをそんな立場には相応しくない男だと確信していたから。

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