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第16話 旅を続けて

「ようやくここまで来たね」


慣れない雪道を懸命に進んでいた魔術師パーティーは、ある国の国境に辿り着いた。


「フォライドくん。ジャヴェンス陛下が用意してくれたものを出してくれ」


「う、うん」


小柄な死霊魔術・フォライドは、雪が絶えず舞う中で自身が背負っていたバックパックを降ろし、中から書類を出して炎魔術師・ラクェルに手渡す。


「ありがとう。・・・私たちはソルライク王国から来た、魔王討伐のために組織された魔術師パーティーです。これはこちらの王が用意してくれた書簡、確認をお願いします」


「う~さすがに寒い。故郷の暖かさが恋しいぜ。さすが特殊な気候で有名な地域ってところだな」


そしてラクェルが書類を手にして国境警備兵に近づき、確認作業を行っている間。故郷では必要ない厚いコートを着込んでいる氷魔術師・モンブズは、鼻をすすりながら体を震わせた。


「モンブズさん、氷を扱えるのに寒いのは得意じゃないんですね・・・」


その様子を見て、寒さによって鼻や頬を真っ赤にさせている回復魔術師・ユーネスは、思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「能力は関係ねえよ。にしても王国から、普段は使わねえような防寒具やマッチを持ってきてて良かったなあ」


「でもモンブズっちのことだから、この雪原でも上裸で走り回るかと思ってたよ、アタシ」


「んなバカなことできねえよ!」


モンブズに対して意地悪そうな笑みを見せるのは雷魔術師・レラエ。しかしそんなレラエも厚手の手袋をつけ、ガタガタと体を震えさせて寒さに耐え忍んでいる。


「それにしてもこういう時、ユーネスっちの髪の長さは羨ましいわ・・・」


「あー・・・レラエさんの髪、伸びてきたとは言えまだ短いですもんね。でもそこまで関係ないかもですよ?わたくしも結構寒いですし。フォライドさんだって前髪は長めですが、どうですか?」


「いやいや。ボクも皆と同じぐらいの寒さだよ」


少しでも暖を取れるようにと、固まって話をする魔術師パーティー。


降りしきる雪の中で、初めて体験する寒さに堪えるような話をしていると、じきに目的を果たせたラクェルの声が聞こえてきた。


「待たせたね。上手くコミュニケーションが取れず手こずったけど道を開けてくれた。さあ行くよ」


「了解。このコーフリオ王国に入れたらまずは宿泊場所探しだな。寒くて嫌になるぜ」


皆を引率するラクェルの後を、寒さへの文句を口にしながら追っていくモンブズ。さらに彼に続いて他の面々も足を動かし始め、『光の国』の魔術師パーティーは、雪に覆われている国へと入国した。





ソルライク王国を出発して2か月ほどが経過。


出発時にジャヴェンスから渡された地図。これに記載されている道筋を素直に進み、魔王討伐を目指す魔術師パーティー。


このルートというのはジャヴェンス直々に記したものであり、正確かつ安全に魔王の根城へと行ける道を想定されたものらしい。


事実、ここまで彼らは安全に旅を続けているのだが・・・。


何とたったの一度も魔族軍と戦闘も行っておらず、そもそも遭遇すらしていない。


ソルライク王国から北東の方角に小舟で進み半島に上陸、そしてそこと繋がっている大陸をさらに北に向かって進んでいる現状。だが現時点では戦闘の無い、文字通りただの『旅』と行っているという状態だ。


その道中は魔族どころか人も見当たらないような山岳や草原ばかり。そこで一行はサバイバルのような生活を重ね、ようやく現在も国家として機能していると教えられた、寒さの厳しいコーフリオ王国に到着。


ただこのような現状に、パーティーの面々は困惑と安堵が入り混じっている感情を抱えていた。


もちろん彼らの主たる目的というのは魔王討伐。そしてそれに次ぐ副次的な目標というのが、魔族軍と戦ってその勢力を失わせること。


だが今のところそれは成し遂げられていない。


特にモンブズはそれに歯がゆさを感じており、実は何度かジャヴェンスが指定したルートを逸脱しようと提案している。


しかしリーダー・ラクェルは首を縦に振ることはなかった。


そして死霊魔術のフォライドは、未だ魔族軍と遭遇していないことに、密かに胸を撫で下ろしていた。


旅の出発前。ソルライク王国の闘技場で起きた、ラクェルが手引きしていたサイクロプスによる襲撃。この時に初めて死霊魔術を発動できたフォライドだが、それ以降は魔術を使えない。


旅が始まってからも、皆が寝静まった頃に死んだ虫を対象としてこっそり試してみたりもしたのだが・・・。


「やっぱりダメだ・・・」


どうやっても。一度命を落とした虫が再び動くことはなかった。


このままでは魔族との戦闘に入っても足手まといになってしまう。何なら真っ先に命を狙われ、いの一番に殺されてしまうかもしれない。


このような不安感に苛まれていたフォライドにとって、今の状況というのは決して悪いことではない。


何とか死霊魔術を使いこなせて皆と一緒に戦えるようになった時に、魔族が出てきてくれれば。


当然いち早く魔王を倒したいと彼も考えていたが、それでも血生臭さの無い、今の時間がもう少し続いて欲しいと願っていたのも事実だったのだ。





「だから。私たちはここに宿泊して良いのですか?空き部屋はありますか?」


魔術師パーティーはコーフリオ王国に入国後も地図通りに進み、半日かけて国境沿いから首都・ユフリまで移動。


それから暗い雰囲気に包まれていた街の中心部でユーネスが見つけた、2階建ての宿屋に赴いていた。


「・・・ア・・・」


宿屋のフロントには虚ろな目をした、心配になるほどやせ細っている支配人のような男性。彼はラクェルの言葉に対して、小さく声を出すがそれが何を意味しているのかさっぱり分からない。


「困るなあ、さっきの国境警備隊もそうだが言葉が通じないのか?」


腕を組んで困ったような様子を見せるラクェルだが、レラエが何かに気づいてフロントの机を指さす。


「あれ?でも見てよラクェルっち。あの人、鍵を5個置いたよ?」


彼女の言葉通り、支配人のような男性はいつの間にか部屋番号が書かれている鍵を取り出し、机の上に並べていた。


「・・・宿泊可能ということか。ここまで野宿ばかりだったし、別のところを探すのも面倒だ。各々部屋に入って早く休憩しよう、何か報告し合うことはあるかい?」


どうも他に客もいないというので、その場でラクェルがパーティーメンバーに問う。


「アタシは別に」

「俺も無し」

「ボ、ボクも特には・・・」


これはいつも寝る前に行っている定例的な慣例のようなものなので、レラエも、モンブズも、そしてフォライドもいつもと同じように答えたのだが。


「あ、あの・・・」


ユーネスだけが灰色の腕輪を装着している右手を上げた。そして皆が彼女の方に顔を向けると、ユーネスは震える声でこう口にする。


「あ、あの。言いにくいことではあるんですが・・・」


注目を浴びる中、意を決して彼女は話始めた。


「わたくしが代表して管理していた食糧なんですけど。実は先ほど数を確認したらかなり数が減っていまして。誰か詳しいことを知りませんか・・・?」

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