第15.5話 大切なもの
小舟が待っている港へと向かう馬車の中。
「フォライドさん、かなり書物を持ってきてますね?」
荷物を整理していたフォライドに、隣に座るユーネスが驚いたような声をかけてくる。
「本当だ、フォライドっち。ちょっと持ってき過ぎじゃない?」
さらに正面にいたレラエも呆れるような表情を浮かべて、少し身を乗り出してフォライドの荷物を覗き込んできた。
そこにあるのは大小さまざまな書物だ。
「いや・・・念のためにこういうのも必要かなって思って・・・。王城の書庫から引っ張り出してきたんだ」
苦笑いをしながら答えるフォライドはその中から厚い1冊の本を取り出して説明する。
「特にこれ。魔術の基礎的な扱い方が書いてあるから手放したくなくて」
そしてこの本のページをパラパラとめくっていくフォライド。
そこに記されているのは魔術に関する説明。
魔術を使うには十分な魔力が必要であること。
その人物が必要と感じた時、自然と頭に最適な呪文と効果が浮かび上がってくること。
個々人によって扱える魔術の種類も数も異なること。
無詠唱での魔術発動は大変難しく、驚くほどの運と強力な胆力が必要であること。
「だけど見てほら。これ、皆が使える魔術の呪文と効果がほとんど載ってるんだよ」
フォライドは書物のページを指さしてユーネスとレラエに見せていき、彼女たちも揃って声を上げる。
「へぇ。アタシの雷魔術もあらかた書いてあるじゃん」
「わたくしの回復魔術も。あ、でも錬金魔術の項目なんかもありますね。この魔術師パーティーで使える人はいないですけど・・・」
加えてフォライドは目次らしきページを開いた。
「後は魔族に関する項目もあるんだよ。たとえば『人間よりも寿命が遥かに長いようだ』とか『現時点では人間と会話が成立できないと考えられている』とかね」
「それにしてもこれ、誰が書いたのよ?」
こう言ってフォライドが持つ書物の背表紙を見るレラエだが、そこを見て顔をしかめる。
「ぜ、全然読めない・・・。だいぶくすんでるわね・・・」
「そうなんだよね。でも多分だけど『エルスメギ』って人が書いたんじゃないかな。一応、最後のページに小さく『著・エルスメギ』って書いてあるんだ」
するとレラエは「貸して」と言ってフォライドから書物を受け取り、先ほどの彼と同じようにページをパラパラとめくっていくが、ガタンッという馬車の大きな揺れも手助けしたのかその拍子に何かがぱさっと中から出てきた。
「ん?何よこれ」
「あれ?本当だ。何だろう?」
それを拾い上げるフォライド。どうやら畳まれた2枚折りの紙のようであり、彼は恐る恐るそれを開く。
「・・・え!?こ、これって!」
そこに書かれていたのは王家の系譜。このソルライク王国の王族であるロイノガート家の家系図のようだ。
「め、めっちゃ字が小さいけど貴重な物じゃない・・・?」
「わ、わたくしも初めて見ました・・・。陛下の名はありますか?」
フォライドが持つそれに対し、一層の関心を示したユーネスとレラエ。するとフォライドは目を細めて懸命に『ジャヴェンス』の名を探すと・・・。
「あ、これじゃない?」
小さい文字で書かれている『ジャヴェンス・ロイノガート』の名を発見。
「・・・ふぅん。陛下、全然ご家族の話をしないけどこういう縁戚関係なのね」
「そ、そうですね・・・」
物珍しい資料を目にして興味津々なレラエとユーネスだが、ここでフォライドがあることに気づく。
「あれ、ユーネス。その右腕につけている腕輪は何?」
ユーネスが右腕に装着している腕輪。普段彼女は、くすんだ灰色をしているそんなものはつけていないはずだが。
「あ。本当だ。何よそれ?」
レラエもその存在に気づいて腕輪を凝視すると、ユーネスは恥ずかしそうに桃色の髪をかきながら口を開く。
「こ、これは。実は陛下から頂いたものでして。『皆を守るための、大事なお守り代わりじゃ』っていうことだそうです」
「ふぅん。アタシにはそんなのくれなかったなあ。贔屓されるねぇ、ユーネスっち。羨ましいよ」
口を尖らせながら、そして羨ましそうにその腕輪を眺め続けるレラエ。対してユーネスは「そこまで大げさな物じゃないですよ」と苦笑いしながら答えるが、じきに馬車は止まり。
「・・・あ。到着したみたいだね」
フォライドたちはようやく、本当の出発地となる港に着いたのだった。
章の作成はしませんが、ここまでが序章のような感じです。