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第12話 事情聴取

「何ぃ!?ラクェルの野郎が昨日襲撃してきたサイクロプスと繋がってただと!?んなことあり得ねえだろ!!」


「お、落ち着いてモンブズ!」


レラエがジャヴェンスのもとへ向かった後。フォライドはちょうど両親との面会を終えたばかりのモンブを捕まえて自室へと連れ込んだ。


家族からの差し入れで貰ったのか、両手いっぱいに果物を抱えて上機嫌だったモンブズ。しかし彼はフォライドの話を聞き、すぐにその表情を一変させた。


「でもレラエが森でその様子を見たのは確かなんだろ?ラクェルの野郎に事情聴取しないとな」


「ま、まあ・・・。レラエもかなり思い詰めてるし、さすがに事実確認は必要かなって。ただ冷静にはならないと。ラクェル本人から話を聞かないと分からないことも多いし」


部屋のドアと窓はしっかり閉めているものの、王城内にいる関係者に会話を聞かれることを避けるため小声で話すフォライドだが・・・。


「何言ってたんだバカ野郎!もしかしたらお前もユーネスの野郎も、あのサイクロプスに殺されたのかもしれないんだぞ!」


当のモンブズはそんなことお構いなしに、廊下まで漏れてしまいのではというほどの大声で吠えてしまう。


「わ、分かってるから!お願いだからもう少し声を抑えてよモンブズ・・・!」


「もう明後日には魔王討伐の旅に俺らは出るんだ!揉め事は早く処理しないと気が済まねえ!さっさとラクェルの野郎のところに行くぞ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


こうして顔を真っ赤にしたモンブズは部屋を飛び出していき、フォライドもそれを追いかけるように慌てて駆け出した。





「ああ、そうだよ。そもそもあのサイクロプスは私が用意したものだからね」


「「・・・は?」」


大股で殴り込みに行ったモンブズと、少しでも穏便にと言いながらその体にしがみついていたフォライド。


なだれ込むようにラクェルの部屋へと入った両者を見て、当初は大いに驚いた部屋の主だが、モンブズが息を切らしながら語る話の内容を聞けばあっさりとそれを認めた。


「マジで言ってんのか、お前?」


「ああ。大マジだよ。しかし色々と事情があってね。・・・これはフォライドくんのためだったんだよ」


「ボクのため・・・?」


「うん、君の魔術を発動させるため。まあ最終手段と言えるものだったんだけどね」


そしてラクェルは、肩まで伸びた赤い髪に時折触れながら話す。


サイクロプスを退治する前の段階ではまだ魔術が使えなかったフォライド。国王ジャヴェンスは彼のことを魔王討伐の旅には同伴させず、城に残すことが好ましいという方針を打ち出した。


しかしそれに反対したラクェル。そして彼は前々から思案していた賭けに近い策を講じることとなる。


それは、これまで訓練に使用されてきたゴブリンよりも強力な魔族を使い、フォライドのことを追い詰めてその力を目覚めさせるというもの。


「そもそもあのサイクロプスはね、実は浜辺に打ち上げられていた個体なんだ。まあ国王陛下にも黙ってたんだけどね」


「・・・何を言ってんだよ。ラクェルの野郎・・・」


するとラクェルは、自身の目の前に立つフォライドとモンブズに対し、真剣な目つきを向ける。


「これまで訓練で使っていたのは貧弱なゴブリン。あれではトレーニングにもならない。私も昨年辺りからあんなザコ魔族ばかりと戦うのに嫌気がさしててね。色々と情報を収集していたんだよ」


すると彼は街中で噂を掴んだ。


ある浜辺に突然サイクロプスが打ち上げられた。酷く体が衰弱していることもあり、その対応に困っているというものを。


そこでラクェルは、皆には内緒で浜辺付近の住民と接触を図り、それが事実だと判明。さらに色々と根回しをしてここまでそのサイクロプスを連行したのだ。


「巨体だから隠すのには苦労したけどね。ただ食事を与えるとある程度は回復した上に、こちらの言うことは理解でき、自分がもう魔族軍に戻れないことも察していたのか命令を素直に聞いてくれたよ」


淡々とした口調でラクェルは「だが、あちらの伝えたいことは分からなかった。断片的に人間の言語を真似しようとしていたがね」と続ける。


「・・・」


ラクェルの話を聞いて呆然とするモンブズだが、フォライドの方は小さな声で昨晩のことを語り始めた。


「そ、それは確かにボクも思うところがあって・・・。あのサイクロプス、何か伝えようとしてたんだよ」


彼はうつむき、その出来事を思い出す。


サイクロプスは自分たちとコミュニケーションを図ろうと試みていた。しかしじきに暴走を始めてしまい、フォライドはその言葉の意味を理解できなかったが。


「おいラクェルの野郎。それは国王陛下に伝えてるのか?」


「ああ、昨日の夜遅くにね。頭を下げて謝罪をしたよ。『いかにフォライドくんのためだと思っても、かなり危険な行いだった』とね」


「もちろん叱られたさ。だけど、陛下はじきに許してくださった」と目を伏せるラクェルを見て、フォライドは思う。


自分たちと一緒で10歳の時にここに来たラクェル。すると彼は自然にリーダー役として皆をまとめるようになった。


魔術の実力も伴っているラクェルは国王からの信頼も厚く、魔術師パーティーの代表として国の会合にも参加をし。


おまけに端正な顔立ちということもあって、レラエやユーネスによれば街にいる女性からも密かな人気のある存在だという。


そんなことを幼い頃から知っている身としてフォライドは、彼のことを悪人だとは思わない。


魔術を使えなかった自分のことを常に心配してくれており、魔術師パーティーの仲間を誰も取り残さないようにしたいという強い意志もそこから伝わる。


訓練でも率先して指示を出し、魔王討伐の旅を始めてもきっとパーティーの核として頼りになるに違いない。


だがフォライドは、他の面々と比べても、ラクェルという人間について知らないことの方が多い。


ラクェルは子供時代からジャヴェンスと行動を共にすることも多く、フォライドたちとは一線を画すような時間を過ごしていたことも事実だからだ。


「まあ・・・陛下が許すんじゃ俺らも文句はこれ以上言えないが・・・。レラエの野郎にもちゃんと謝れよ!それとユーネスの野郎とフォライドの野郎にもだ!お前のせいで危険な目に遭ったんだからな!」


肩をすくめながらもモンブズは腕組みして注意をし、その言葉に頷いたラクェルも「それは正論だね」と答えて頭を下げる。


「悪かったねフォライドくん、勝手な判断で動いてしまって。だけど魔術を発動できたし、これで正真正銘、5人で旅に行けるよ」


そして頭を上げ微かな笑みをフォライドに見せるラクェル。


「い、いや・・・。うん、大丈夫だよ・・・」


色々と引っ掛かることもあるが。フォライドは彼の謝罪を受け入れるしか、今はできなかった。

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