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第11話 疑いたくないけど

雷魔術師・レラエ。


他の面々と共に王城で暮らすようになった当初から、大人しいユーネスとは違って社交的であるがゆえに、言いたいことはハッキリと口にするタイプで。


昔から氷魔術師であるモンブズとはよく衝突していたのだが、互いに喧嘩の内容を引きずることなく、翌日にはもうケロッとして仲良く話しかけるところを目にすることも多く。


闘技場で行われてきた戦闘訓練では凛々しく戦う姿を見せる一方で、先日ラクェルの部屋で行われたフォライドの処遇を巡る話し合いの中では、魔術が使えない彼の身を心配するあまりヒートアップしてしまったり。


フォライドはそんなレラエのことを、サバサバとした性格でありながら、フランクで優しく気高い女性だとそばで見て感じていた。


だが。


「ラ、ラクェルっちが・・・昨日の日中、あのサイクロプスと一緒にいたところを見たのよ・・・」


彼女は今、フォライドの目の前でぶるぶると体を震わせてしまっている。


「そ、それって・・・どういうこと?」


レラエの言葉を聞いたフォライドは思わず聞き返す。


いや、彼女の言っている意味というのはもちろん分かっている。


昨晩、闘技場で話していたフォライドとユーネスのもとに出現したサイクロプス。


彼が初めて発動できた死霊魔術で時間を稼ぎ、遅れてそこに到着した魔術師たちの攻撃で倒せた魔族。


しかし『光の国』の魔術師パーティーのリーダー格であるラクェルが、そんなサイクロプスが夜襲ってくる前に、実は顔を合わせていたという話だ。


だがそもそもの話。


フォライドはここまで様々な書物を読んで、さらにジャヴェンスからの話を聞き、魔族の特徴などは把握しているつもりだ。


ただ『魔族は人間の言葉を話せない』ということは、そんなフォライドだけでなく魔術師パーティーの面々でさえ知っている、一種の一般常識というものである。


そうであればラクェルはサイクロプスと一緒にいて何をしていたというのだろうか?


不可思議な事態に対して首を傾げるフォライドだが、その様子を見たレラエは力なく答える。


「アタシも少し遠いところから見てたから、詳しいことは分からない・・・。でもラクェルっちがサイクロプスと一緒にいたのは事実よ・・・」


「ねえレラエ。どの辺で一緒にいるところを見たのかな?」


レラエのことを気遣い、優しい口調で問いかけるフォライドに対し、彼女は静かに頷く。


「昨日の昼過ぎ。フォライドっちとモンブズっちが闘技場に向かった後。アタシ、話し合いの時はちょっと言い過ぎたかなって思ってふたりと話そうと思ってたの。でも・・・」


そして前日の出来事の説明をレラエは続ける。


午前中は魔王討伐の旅に向けて魔術が使えないフォライドの処遇を巡り、モンブズと口論気味になったレラエ。


最終的にはユーネスに促されたフォライド自身が「皆と魔王討伐に行きたい」と答えると、モンブズがその言葉に感銘を受けて。


そのまま彼はフォライドの首根っこを引っ張って昼食、そして闘技場へと連れて行った。


残されたレラエはユーネスと共に昼食を摂ったというのだが、口論の中でフォライドに対して『足手まとい』と表現してしまったことを申し訳なかったと感じ、謝罪をしようと闘技場近くまで足を運んだ際。


「闘技場のそばにある森の中に・・・ラクェルがいたの」


彼らがいる王城はソルライク王国の首都・タイオの高台にある。その高台自体は、城へと続く道こそ人や馬車が通れるようにある程度舗装されているものの、それ以外は木々が生い茂る森となっている。


森の麓には警備担当の近衛兵こそ配置はされているものの、このソルライク王国は大きな犯罪も無い『光の国』ということでそれも手薄だと評せるほど。


ただその森に入ることは危険だというので特に幼い頃は近づくことさえ固く禁じられており、魔術師パーティーの面々はようやく最近なって行くことを許されたエリア。


「最初は誰なのか分からなかったんだけど・・・」


闘技場に向かっていたレラエは、訓練をしているフォライドとモンブズ以外の声が森から聞こえ、彼らに会う前に様子を見に行った。


「もしかしたら王城の庭師とかが迷子になっているのかも?」と思ったそうだが、木々が並んでいるところにまで少し下りると。


「そこにラクェルっちがいたの。そして『誰と話してるんだろう?』ってこっそり近づいて見てみたら・・・」


ラクェルの目の前には、灰色の肉体を持つ一つ目の巨人がいたというのだ。


「会話の内容までは分からなかった。だけど途中で闘技場の方にラクェルっちは指をさして、何か説明をしている感じだった・・・」


衝撃的な内容だが彼女のことを不安にさせないよう、大きな反応は控えて冷静に頷くフォライド。


「そ、それから・・・何だか急に怖くなっちゃって・・・。闘技場に行ってふたりに相談しようと思ったんだけど、声をかける勇気がわかなくて・・・」


話を聞きつつも、ラクェルと魔族との接点など全く思い浮かばないフォライドに対し、レラエは震える声でこう絞り出した。


「も、もしかして・・・。ラクェルっちは魔族軍と繋がってるのかな・・・?」


そして彼女はその瞳からポロポロと涙をこぼす。


「アタシだってこんなこと考えたくないよ!だ、だけど!じゃあラクェルっちはあのサイクロプスに何の指示を出してたの!?夜は普通に一緒に戦ってたし、アタシ、よく分かんない・・・」


部屋に響くのは、頬を流れる涙をぬぐったレラエの、鼻をすする音だけ。


「仲間のことを疑いたく思いたくないよ・・・家族みたいなもんだし・・・。だから『あれは見間違いだ』って言い聞かせて普段通りふるまってたけど・・・。サイクロプスを倒した後も全然眠れなくて・・・」


肩を落とすレラエの姿を見てフォライドは思案する。


昨晩戦ったサイクロプス。あれは確かに自分も違和感を覚えていた。そもそも当初はこちらに何かメッセージを伝えようと試みており、しかし途中で暴れ出してしまい・・・。


「・・・レラエ。そのことは、ボクの前に誰かに話した?」


この言葉を聞いたレラエは涙をぬぐって首を横に振る。


「ううん。ユーネスっちは朝から国王陛下のところに行ってるし、ラクェルっちとモンブズっちは城に来てる両親と会ってたし・・・」


明後日には出発する魔王討伐への旅。


10歳の頃からこの城に移った魔術師パーティーだが、出発当日まで各々家族と会えることになっている。


今日の午前中にラクェル&モンブズの両親が。そして明日の午前中にはフォライド&レラエ&ユーネスの両親が面会に訪れる予定だ。


フォライドは部屋にある時計を確認。そろそろラクェルたちの面会は終わっている頃合いだと計算し、レラエに声をかけた。


「・・・こうしよう、レラエ。そっちは今からジャヴェンス国王陛下のもとに。ユーネスも一緒にいたらきちんと話を聞いてくれると思う。ボクは・・・モンブズと一緒に、直接ラクェルに話を聞いてみる」

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