第9話 一件落着・・・?
「さて。ここまで耐えてくれたふたりに代わり、サイクロプスは私たちで退治しようか」
赤色の髪を揺らしてラクェルがこう宣言すると、彼は<炎帯>と呪文を口にし、鞘から抜いた剣に炎をまとわせ。
「ちゃっちゃと終わらすか。フォライドの野郎が魔術を発動できたのも、この目で確認できたしな」
水色の坊主頭に汗が光るモンブズも、<氷球>と唱えて足元にソフトボール大の氷の球体を山ほど発生させ。
「何してくれてんのよあの魔族。こんなところで仲間を殺したら許さないわよ」
そして短い金髪を翻しながらレラエは<雷脚>と言って両足に電撃を帯びさせ、サイクロプスのことをギロリと睨んだ。
そしてジャヴェンスは。
「フォライドよ、よくぞ死霊魔術を発動させてユーネスを守り抜いたな。後はこの子たちに任せなさい」
フォライドに労いの言葉をかけ、他の3人と一緒にフォライドたちの前に立つ。
「さて、旅の前哨戦としては十分じゃ。『光の国』の魔術師パーティーよ。あのサイクロプスを今すぐ倒せ!」
前方に指をさしたジャヴェンスがこう指示を出すと一斉に3人は動く。
「行くぜ!」
サイクロプスのもとへと一気に駆け出したラクェルとレラエ。そして彼らをサポートするためモンブズが動く。
「おらっ!ほらよっ!」
彼は足元にある氷の球体を抱え上げると、弱点である一つ目を狙い次々とそれを投げ込んでいく。
「・・・っ!」
自らに向かってくる氷の豪速球を、歯を食いしばって両手でガードするサイクロプス。
投げ込まれたその球体はサイクロプスの腕に当たる度に割れ、中からさらに鋭利な氷の棘が飛び出してくるが、灰色の肉体はそれを弾く。
しかし。
「バカ野郎、それは目くらましだよ」
ニヤリと笑うモンブズの言葉に続いてアクションを起こしたのはレラエだ。
「デカい図体ね!足元はガラ空きよ!」
彼女はこう叫び一気に距離を詰める。そして電撃を帯びている足で、モンブズから投じられる球に気を取られていた敵の膝を、思い切り蹴り上げた。
「がぁぁぁぁ!」
大きなうめき声を上げたサイクロプス。もろに食らったレラエの攻撃により、それは大きくバランスを崩す。
「まだ終わりじゃないわ!」
さらにレラエは地面に両手をついたサイクロプスの脇腹に向かって、後ろ蹴りを食らわせた。
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
厚い皮膚を貫くほど強力な電撃攻撃。蹴られた場所は黒く焦げついてしまい、サイクロプスは思わず仰向けに倒れてしまうが。
「ここまでお膳立てをしてくれて感謝するよ。モンブズくん、レラエくん」
その大きな一つ目が捉えたのは、宙に舞っているラクェル。
月に照らされた彼は空高く飛んでおり、その弱点に目掛けて剣を振り上げる。
「良い練習になった。今までの鍛錬は無駄でなかったと安心した」
ラクェルは剣の柄の部分を力強く握り、思い切り振り落とす。
「~っ!!」
その攻撃を回避不可能だと判断したサイクロプスは、氷の球体を防いだ時のように両手で顔を防御するが。
炎をまとった剣は太い腕ごと、ザシュッという音を立ててサイクロプスの瞳を斬った。
「があぁぁぁぁぁ!!!!!」
ひときわ響く魔族の悲鳴。その瞳からは膨大な量の赤い血が噴き出していき。
だが地面に着地したラクェルはもう一度高くジャンプすると、大きな裂傷を負っている瞳を目掛け、今度は剣を一刺しする。
「火力が弱いか・・・?」
ラクェルの言葉の後、剣にまとっていた炎はさらに大きくなり、刺した箇所からは黒煙が出てきて。
「がぁぁ・・・ぁ・・・」
段々とサイクロプスの声は徐々に絶え絶えになっていき、体中から力が抜け。
「ぁ・・・、ぅ・・・。・・・」
そしてじきに、完全に動かなくなった。
これを見届けたラクェルはジュルッと耳に残るような音を立てながら剣を瞳から抜いて、それを少し振って血を飛ばした後に鞘に戻す。
「炎による熱のおかげで消毒はできているが、後で綺麗にする必要があるね」
彼はサイクロプスの亡骸を見ながら呟き、一足先に駆け寄るモンブズやレラエに囲まれたフォライドのそばへと近づく。
「やったじゃねえかフォライド!さっきいた屍はお前が魔術で呼び出した奴だろ?」
「えっと・・・それは・・・」
「ここに向かってくる途中、暗かったけど見えてたぜ!動く屍が魔族と戦っているところをよ!」
「あ、あの。モンブズ、さすがにちょっと痛い・・・」
バンバンと大きな音を立ててフォライドの背中を力強く叩くモンブズ。だが背丈の小さいフォライドはそのせいで上手く話せずにいた。
この様子を目にしたラクェルは苦笑いをしながら「モンブズくん。フォライドくんが話せるように手を止めよう」と冷静に指摘し、その手首を掴んでようやくフォライドは解放される。
「でもモンブズさんの言う通りですよ。フォライドさん、ようやく魔術を使えるようになったんです!」
隣にいるフォライドに向かって「ですよね?」と水を向け、大きな目をさらに開くユーネス。
「そ、そうなんだ。だけど、どうしてあのタイミングで使えるようになったのかは分からなくて・・・」
微かに笑みを見せるフォライドだが、今はとにかくあの魔族を倒せたことに安心をしている。
盛り上がっている面々の少し先にあるサイクロプスの亡骸。
どこから来たのかは分からないけれど。大きな被害を出さずに倒せて本当に良かった。
「そうだ。あの死体、いつもみたいに魔族死体埋葬所に持っていかないと」
ただその大きさはこれまで運んだゴブリンとはかなり違うというので、フォライドは困ったような表情を浮かべていたが・・・。
「良い良い。あれは近衛兵に処理を任せよう。お主らは早く城に戻って体を休めなさい」
そんなフォライドの方にジャヴェンスが歩み寄り、彼の肩を抱く。
「良かったのう。何がきっかけだったのかは分からないが、本当に良かった」
その皺だらけの顔に満面の笑みを浮かべながら労うジャヴェンス。
「だ、だけど陛下。二度目の魔術を発動しようとしたんですが、それは上手くいかなく・・・」
「心配せずとも大丈夫じゃ。一度でも魔術を発動できればじきに習得できる」
「それにしても、私たちの到着が遅れて申し訳なかった。実は君の処遇に関する話し合いをしていて」
そうしてジャヴェンスから諭されていたフォライドに向け、ラクェルが説明を行う。
フォライドの件についてジャヴェンスともう一度話し合いをし、皆の意見もぶつけようとモンブズとレラエに声をかけて集まってもらったこと。
しかしユーネスと、この話の中心人物であるフォライドが城の中にいないことに気づき、ようやく闘技場の異常事態に気づいたことも。
「しかしこれで陛下も文句は無いはず。・・・ですよね?」
「そうじゃな。一度でも魔術を発動できれば良いと約束したからの。・・・5人での魔王討伐の旅、頼んだぞ」
この言葉を聞いて歓喜するモンブズとユーネス。安堵の表情をするフォライドに、彼と握手を交わすラクェル。
だが、雷魔術師のレラエだけは、どこか浮かない顔をしていた。