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プロローグ

一部例外もありますが、各話の文字数は2000字~3000字ほどとなっています。

また、投稿ペースもかなり不定期になっています(おそらく1日に数話投稿することも・・・)がよろしくお願いいたします。

「今日からお前のことイジメるわ!なんかキモいし!」


小学校の頃に、そのイジメは始まった。


「ムカつくから顔面殴らせろ。そのキモい(つら)をボコボコにしたい気分なんだよ」


中学校の頃も、そのイジメは続けられた。


「さっさと金出せよ。・・・持ち合わせがない?じゃあ今から殺すわ」


高校の頃になると、そのイジメはさらに悪化した。





納得できる理由も無く、突然少年時代に始まった酷いイジメ。


いつもボクのことをイジメてきた彼は幼馴染だ。だからなのか、周囲の大人はボクらのことを気の許した親友同士だと思い込んでいることも多かった。


だけど現実は異なる。


ボクは彼の手によって、何度も本気で「殺される」と命の危険を感じた。だけど当然それに対し、体が小さく腕力も弱いボクは抵抗なんかできるわけもなく、ただ蹂躙される毎日で。


気づけば高校卒業から10年。


高校以降は別々の道を歩んだため、さすがに今ではイジメを受けることは無くなったけれど。それでも彼から受けた度重なる仕打ちのせいで、ボクは心に大きな傷を負った。


だって今でも道端で彼に会ってしまうかもというバカげた妄想を抱いていて・・・。外に出ることが怖いんだ。


だが今でも周囲の大人、たとえば両親も味方ではない。


29歳になっても、未だにイジメのことを思い出しては突然手足が震えるボクのことを、詳しい事情も知らずに酔っ払いながら『失敗作』だと罵ってきた日には目の前が真っ暗になった。


でも当然だ。子供の頃、あれだけ必死に彼のイジメのことを訴えたのに、平気な顔して無視してたぐらいだから。今更その態度が変わることなんてあり得ない。


・・・。


イジメをしていきた幼馴染の彼は、成功者になった。


大学でベンチャー企業を立ち上げ、そしてそれはすぐ軌道に乗って。


メディアからは今も引っ張りだこ。そう言えば、美人な芸能人と最近結婚したらしい。


それじゃあボクは?


ボクは?


・・・ボクは、どうしよう。





「山中で容疑者を発見!あの男を逃がすな!」


ボクの後ろで、レインコートを着た警察官が無線に向かってこう叫ぶ。


「待て!そこで止まれ!犯罪者!」


他の警察も怒号を浴びせてくるが、運動神経が悪いはずのボクの足は止まらない。


降り注ぐ冷たい雨。もう季節は11月中盤、濡れたら寒くなるはずだ。


肩にかけた鞄に入っているのは血がこびりついた凶器。こんなものは、山を登る途中まで使って道端に乗り捨てた自転車の籠の中にでも置いておけばよかったんだけど、なぜか持って飛び出してしまった。


「くそっ!木が邪魔だ!・・・おい、おいおいおい!その先は危ないぞ!大人しく捕まってくれ!」


大粒の汗をかきながら。警察の呼び止めにも応じず、必死になってボクは山腹にある林を下る。


もう捕まっても良いんだよ。目的は果たせたわけだし。


ある日決意を固めたボクは、何とか彼の居場所を突き止め、これまで受けてきた仕打ちの『復讐』を遂げることができた。


そしてボクは現場から逃げた。逃げて逃げて。


・・・ああ。子供の時も、こういう風にイジメから逃げることができてれば良かったのになあ。


もしどこかで勇気を持って逃げることができていれば、その先には今とは違う別の人生が待っていたかもしれない。・・・でもそれも後の祭りか。


不思議なことに、どこか冷静にこんなことを考えていたボクの視線の先には。


「・・・あ」


とても大きな崖が姿を現した。


そうだ、ここから飛び降りて、死のう。


こう思いつくのに時間なんて必要なかった。


「おい!やめろ!それだけはやめるんだ!」


林の中を懸命に追跡してきた警察は、スピードを落とさないボクに最後の力を振り絞って声をかけるが。


「・・・さよなら」


「おい!!!!」


ボクは飛んだ。


遥か下にはゴツゴツと尖ったような岩がたくさんある。当たったら痛いんだろうな。だけどこれで楽になるんだろうな。


彼には復讐ができて満足している。もしかしたらお互い、地獄でまた会うかもしれないけどね。


それに・・・父さんや母さんも、これで殺人犯の親だ。


ざまあみろ。たったひとりの子供がこの有様。何度もSOSを出していた息子のことを無視して、今でも苦しむボクのことを散々バカにしてきた罰だ。


じきに家にはマスコミが大挙し、ネットではボクの素性が暴かれて。世間は被害者である彼が酷いイジメをしていた過去なんか知らないから、ベンチャー企業を率いていたその手腕を評価して同情するだろう。


空中にいるボクは、ひとすじの涙を流す。


・・・誰も。そう誰も、ボクの死を悲しむ人なんかいない。


でもそれも当然だ。だって他人から見ればボクは、『些細な私怨』によって善良な市民である彼に手をかけた、軟弱な精神の犯罪者だから。


神様。もし生まれ変われるなら。


「せめて・・・。子供の頃に夢見たような・・・。正義の味方になりたい・・・」


思わずこう呟いた直後。壮絶な痛みと共に、ボクは命を落とした。



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