CHILL
深夜の高速道路。この時間帯は長距離トラックか走り屋しかおらず、道路に沿うような形で存在する小さなパーキングエリアは、忘れられたように閑散としていた。
そこにエアロパーツをまとった如何にもな黒いRX-7 FD3Sが街灯に照らされながら進入し、駐車場に止まる。
FDのステアリングを握っていたタクトはエンジンを停止し外に出ると、冬の冷たい空気を頬に感じながら近くにある自販機に向かう。
そして、缶コーヒーを買い戻ってくるとFDの前で温かいそれを飲み、走り込みで擦り減った神経を回復させながら物思いに耽る。
背後には工場地帯の夜景が広がり、目の前には鎮座する黒いFD。その奥を通る本線では、青いBRZがエキゾーストを響かせながら疾走していった。
何処かで下りるかジャンクションで折り返すか・・・
走り抜けたBRZのその後の行動を無意識に予想する。
しかし、そんな予想も大型トラックが数台通過する頃には自然消滅した。
「帰るかもう一本走るか・・・」
FDの運転席に乗り込み、呟きながらこの後の行動をタクトは考えた。ぼんやりと考えながらエンジンも掛けず冷えていく車内で、コーヒーをチビチビやりながらスマホをいじり出す。
バケットシートに身を預けスマホをいじること数十分。こちらに近づくエキゾーストが響く。
タクトはスマホをいじる手を止めパーキングエリアの入口に視線を向けると、二台分のヘッドライトがこちらに迫っていた。そして、二台はタクトのFDを挟むような形で停車した。
右側に黒いアルテッツァ。左側に白い180SX。どちらも友人の車だ。
友人の登場にタクトは口元に笑みを浮かべながら再びFDを下りた。
「おっすー、今日は早いね。」
180から出て来たメガネのヨシフミが開口一番に言う。
「今日はちょっと暇だったんでね。」
「もしかして寝てた?」
背後からアルテッツァの大柄なドライバー、イツキがからかうように話しかける。
「いや、ボーッとチルしてた。」
そこから愛車のことやネットで見つけた面白ネタ等、三人のバカ話が始まる。
そして、タクトはコーヒーを飲み干し、空き缶を捨てに行ったタイミングで・・・
「タクトが戻って来たら行こうぜ。」
そう言ってイツキは本線に目をやった。
「いいね。行こう。」
ヨシフミが賛同する。
そのタイミングで戻って来るタクト。
「タクト、一本行こうぜ。」
今度は親指で本線を指しながらイツキは誘った。
「ああ。行こう。」
その言葉を皮切りに三人はそれぞれの愛車に乗り込み、エンジンを掛けた。そして、三台分のヘッドライトが煌々と輝く。
三台はイツキのアルテッツァを先頭にパーキングエリアを出ていった。