裏切り者(666文字の超ショートショート)
超ショートショート「裏切り者」
よく晴れた空の下、その男は芝生に横になって少しばかり昼寝をしていた。
彼はとあるサーカス団の一員だった。
幼いころ、彼はこのサーカスにひき取られた。
仲間たちは優しかった。
痩せ細り、今にも死にそうだった彼を、助けてくれた。
彼はその恩を受け止め、そのサーカスに尽くそうと誓った。
今日は休演日だ。
彼は前日までの疲れを癒すために、のんびりすることに決めたのだ。
そうしていると突然、団員の一人が何やら焦った様子で、こちらに走って来た。
「大変だ!何者かに倉庫にあった食料が全部盗まれた!このままでは俺たち、一ヶ月は何も食わずに生活しなければならないぞ!」
『なんだって!』
彼は驚いた。
『一ヶ月も食事をしないなんて、俺は飢え死にしてしまうよ!』
それからは地獄の日々だった。一週間もしないうちに、彼の体はひどく痩せ、
少し歩くだけで目眩がするようになった。
遂に、彼は痺れを切らした。
『これ以上は我慢できない。何か食べ物を探そう。』
外に出ると、何やら団長のテントから賑やかな話し声が聞こえてきた。
「いやあ、この酒は絶品だな!」
「そうだろう!今日は宴会だから、もっと飲め!」
「しかし、団長。本当にアイツを殺して良かったのかい?アイツを買うと決めたのは団長でしょう。」
「良いんだよ。アレの食費は高いし、たいして人気もないし、邪魔になるだけだ。」
彼は激怒した。
彼は騙されたのだ。
『許せん!』
勢いよくテントを突き破り、団員たちを一人残らず殺した。
『人間はこうも傲慢な生き物なのか』
そして、彼は裏切り者の体を、その鋭い爪で持ち上げ、美しいタテガミのついた彼の口へと……
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