あんたも来るか?
夕方、俺は家を出た。保育園に息子を迎えに行くためだ。
庭を通り抜け駐車場の愛車を素通りし、道路に出て保育園に向けて歩き始める。
保育園までの道のりは徒歩で行くにはまあまあ距離はあるが、この時間帯は交通状況がよろしくない。
ちょっとした散歩気分で俺は歩を進めた。
隣家の庭ではおばあさんが家庭菜園の世話をしている。
「おや、どちらへ?」
おばあさんが聞く。
「子供を迎えに保育園まで。」
「それはそれは・・・ちょっと買い物に行く予定があるのでご一緒しても?」
「どうぞ。」
特に断る理由もなかったので、快く同意する俺。
そして、おばあさんから美味しい野菜の作り方について教えてもらいながら、曲がり角に差し掛かる。
角の家ではおっさんが庭に集まる野良猫に餌付けをしていた。
「ん?そんな二人してどこ行くの?」
こちらに気づいたおっさんが聞く。
「子供のお迎えです。」
「私は買い物に。」
質問に俺達は端的に答えた。
「あんたも来るか?」
なぜだかはわからないが、俺は流れるようにおっさんを誘う。
そして、おっさんの猫に関する話を聞きながら、俺達は住宅が密集する細い路地を歩いていた。
菜園を猫がトイレ代わりにしているという、おばあさんの苦情に話題が移ったところで小さなアパートの前に差し掛かる。
路地に面したアパート一階部分の開け放たれた掃き出し窓の奥では、くわえ煙草の若者がギターを抱え床に座っていた。
「変わったメンツの組み合わせだけど、何かあるの?」
若者がこちらを見て聞く。
「俺は子供の迎え。」
「私は買い物。」
「俺は誘われたからついてきた。」
俺達はそれぞれ答えた。
「ふーん・・・」
立ち上がり、近寄ってきた若者は窓枠に手を掛け俺達の顔を興味深そうに見回す。
「俺もついて行っていい?」
そして、若者の最近、所属していたバンドが解散した話を聞きながら俺達は全員で、保育園へ息子を迎えに行った。
その後、なんやかんやあって俺達はバンドを組むことになった。