8 聖女の真実
「 ────はぁ……。全く随分と分かりやすいやり方だ。
召喚されるのが少女だけなわけないよな〜って思っていたが、やっぱり完全ランダムか。
大方男だと王様的には脅威の存在となりうるからって所かな?
女なら嫁にして囲い込めるけど男だと扱いが難しいもんな。 」
危ないものほど手元に置け。
手元に置けない危険なモノは……まぁ、放置はできないって事。
その本を最後まで読み終えた俺は、乱暴にそれを閉じる。
女だったら自身の子を生ませて、その子供が強力な力を宿していたら万々歳。
だから女なら討伐後は手元に置いて死ぬまで国の象徴として利用。
男なら討伐後に力を失い始めた頃に暗殺。
かつ、力が一定以下ならば役に立たないと判断して召喚した日に始末する。
何とも酷い話に気分が悪くなり、投げ捨てる様にその本を本棚に戻した。
ただその事実を知ってハッキリした事は、やはり俺と同じ世界の人間は過去いなかった事。
何故なら────……
「 あの程度の強さじゃ〜1秒もいらねぇもんな?
一瞬で全員殺せる。 」
フッと笑い、俺は次の本へと手を伸ばした。
◇◇◇◇
「 おはようございます、大樹様。
昨晩はよく眠れましたか? 」
完璧な王子様スマイルで入ってきたレオンハルトに向かい、俺はソファーの上でだらしなく横たわったままヒラヒラと手を振った。
「 は〜い、おはようございますぅ〜。
凄く快適でしたよ〜ありがとうございま〜す。 」
ダルダル〜とした態度で挨拶を返したのがお気に召さなかったのか、レオンハルトはヒクッと口端を引きつらせ笑顔を崩していないが内心は不快感全開な様子。
更に後ろにいるザイラスなど ” 不快! ” ” 嫌悪! ” ” 忌々しい!! ” ……を全く隠そうとしない歪んだ顔を俺に向けながら、そのままベラベラと喋り出した。
「 それはそれはごゆっくりされました様でこのザイラスは安心致しました!
初めて過ごされるでしょう豪勢で!ゴ────ジャスな!!汚らしい山賊風情では一生掛けても見ることも叶わぬような!!!……お部屋ですのでねぇ〜。
あまりにも非日常的なお部屋だと休めないのではと心配していたのですよ?
そのため普段の慣れているお部屋をご用意した方が良いかと、馬小屋を整えさせて頂きましたので、どうかいつでも御遠慮なさらずにおっしゃって下さいね!
ゆっくり快適に過ごす事ができて、本当に……ホントぉぉ〜に!良かったです!!
流石は聖女様!その順応力はしぶとく生きようとする虫並に素晴らしい!! 」
「 ……どうも〜。 」
ギシギシ……ギ〜リギリ!!と、歯ぎしりを間に挟みながらの嫌味……いや暴言100%の物言いに、レオンハルト程にとは言わないがちょっとは隠そう?と本気で思ったが、とりあえず無難な返事を返しておいた。
そしてそのまま、まるで親の敵でも見るかの様に俺を睨みながら、ブツブツとザイラスの話は続く。
「 早速ですが、我々としては聖女……いや大樹様の実力が如何程のモノかをまずは確認したいので、今後の訓練の予定を立てるためにも、これから最低ランクのモンスターと戦ってみて頂いて〜──── 」
「 いや、面倒だから今直ぐそのユニークモンスターを倒しに行こう。 」
ズバッ!と言ってやるとレオンハルトとザイラス、更にあの無表情騎士様まで目を見開きポカ────ン……としてしまった。
「 ご……御冗談を……。
聖女様のいた世界にはモンスターという生物はいたのですか? 」
一番早く立ち直ったザイラスが質問してきたので、俺は正直に答える。
・・・・
「 いや?モンスターはいなかったな。 」
するとザイラスは心底バカにした様に鼻で笑う。
「 ────はぁ……これだから平和ボケしている異世界人は……(ボソボソッ)
昨日も軽く話で触れましたが、モンスターとは ” 人 ” の何十……いえ何百、何千と身体能力が高く、更に様々な特殊能力を持った生物です。
ですのでおいそれと倒すことなど決してできない化け物なのですよ。
まずはモンスターがどういうものか知ってもらうため低いレベルのモノから──── 」
「 必要ない必要ない。いいからとっとと行こう。
────あ、俺一人でサクッと行ってきてもいいけどどうする? 」
ダラッと寝転んでいたソファから飛び起きコキコキと首を鳴らすと、レオンハルトの気配がスッ……と変わった。
「 大樹さんは何も知らないのですね。
モンスターの強さも死への恐ろしさも……。
沢山の人々の尊き命が掛かっているというのに、それはあまりにも無責任過ぎます。
……無知は取り返しのつかない事態を招きますよ? 」
レオンハルトはもっともらしい事を言って静かに怒っているが、その心情は心配からくるものではなくもっと単純なモノ。
要は ” 自分の思い通りに事が進まない事が気に入らない ”
上手く利用しようと考えていた道具が思った通りに動かないからプンプンしているというわけだ。
俺は無言でレオンハルトに近づくと、まるでゴミを見るかの様な目で俺を見つめるレオンハルトに向かって挑発する様な笑みを浮かべた。