65 幸せだからいいんだよ( 完 )
( 大樹 )
なんとコレ本当に本当に外れなくて、レオンハルトから離れると俺を殺そうとジワジワと不穏な魔力を垂れ流してくる仕様になっていた。
今現在、レオンハルトは側にいないが、一応はレオンハルト本人が俺の存在を見失う位の距離にいかなければセーフの様だ。
つまり聖女召喚などを使って現代に帰れば……俺の人生はジ・エンドって事。
・・
俺はココから逃げる事は一生できなくなった。
キラキラ光る赤い宝石の様な石がついている指輪を見ながら、全く……とため息をつく。
「 しかもあいつさ〜。婚姻届まで勝手に出してたんだろう?
俺、一文字も書いてねぇからな。 」
何と俺とレオンハルトは、同性婚が承認されたのと同時に結婚していた。
えっ?何言ってんの?って思うだろう、他人の話だったら。
ジト〜……とニコラを睨みつけてやると、ニコラはクスッと笑う。
「 実は同性婚についてのレポートを渡される度に何十枚も婚姻届を出されてましたから。
王宮にはその総勢何千枚にもなる婚姻届が保管されてます。
新年の挨拶の後、一応確認のために離宮にも伺ったのですよ?
そうしたら、扉の向こうから ” 愛してます!結婚しましょう!今直ぐハイッって言って下さい!! ” っていうお兄様の怒鳴り声と、” ……うん……うん……結婚すりゅ〜……直ぐしゅりゅ〜……。 ” って承諾する声が…… 」
「 ああああああああ────────!!!!! 」
俺はその時の事を思い出し、ニコラの言葉を己の叫び声で掻き消した。
新年の挨拶の後、呆然としている俺を見てチャンス!と思ったのか、レオンハルトはそのまま俺を抱えて離宮へ。
そして……まぁ……多分指輪を嵌めた俺の姿が嬉しかったんだろうな。
非常に興奮した様子で荒い息をつきながら ” 私のお嫁さんになっちゃいましたね ” と何度も何度も何度も言っては、ニャンニャンニャ〜ン!
その最中に誰か来たかもとは思ってたが、勿論まともに返事をする余裕などなく……。
顔を隠しブルブルと震える俺を、ニコラは痛ましいモノを見るかの様に見つめた。
「 大樹様は、きっと今まであまり幸福とは言えない人生を送ってきたのだと思います……。
今の状況は、あまり幸せであるとは言えないでしょう。
……やっぱり逃げたいですか? 」
何だかいつもの余裕たっぷりではないニコラの様子に、俺は顔を覆っていた手を外し、フンッ!とデコピンを御見舞してやった。
「 いたっ! 」
何だか子供のような反応を返してくるニコラに、本当にこの兄弟は……と呆れてため息をつく。
「 あのな〜……レオンハルトといいお前といい、俺をすっげぇ可哀想なヤツみたいに言うな!
俺はなぁ〜これでも精一杯その中で生きてきたんだよ。
それを可哀想なモンにしたら、過去に出会ったモノ全部に失礼だろう?
そんな過去込みで、今が幸せだと感じているならそれでいいんだ。
外から見て誰もが不幸だと思っても、それが俺の手にしてきた人生そのものなんだから。 」
「 ……そうですか。 」
ニコラは嬉しそうに口端を上げると、そのままクスクスと笑いだす。
それを汗を掻きながらジトッとした目で見つめる俺に、突然「 ありがとう。 」と御礼を告げ、そのままいつも通りの余裕たっぷりのニコラに戻る。
「 本当に助かりました!
お兄様が他の女性に手を掛けてしまえば、私の王としての立場が危ういものになりますので!
それでは、大樹様は引き続きその ” 幸せ ” に十分浸って下さいね。
離宮はお二人の実家になさってもらって結構ですので。
あっ、国を回る新婚旅行にでもでかけてみてはどうでしょうか?
そしてその先々で少々面倒なモンスターを倒して頂ければ、その討伐分のお小遣い稼ぎも沢山ご用意しますので豪華な旅行にできるかと……。
もうご結婚はされていますし、お二人共不安はなくなった事でしょうしね。 」
「 ……お前さぁ〜。本当に、したたかだよなぁ……。
しかし、新婚旅行ねぇ?
レオンハルトが行った先で、すげぇ〜ボインなおねぇちゃんに誘惑されて、あっさり離婚!とかになるかもしれねぇぞ〜?
俺と違ってあいつモテるしな。 」
今回の事で更にモテモテになった元王子様が、街でも王宮内でも結構なモーションを掛けられている姿を見て、ケッ!と皮肉めいた笑いを漏らすと、ニコラは盛大に吹き出す。
「 大樹様がいなかった10年を見れば、そんな事は言えませんよ。
皮付きスケルトンだと以前言ったでしょう?
父上に焚きつけられるまでは水も食べ物も食べずに地べたにずっと横たわってましたから、その間はアルベルトが必死に口の中にご飯を突っ込んでたんですよ?
雛鳥の様に。 」
「 雛鳥……。 」
無表情で必死に雛鳥王子様に食べ物を食べさせるアルベルトを想像してしまい、ブブ────っ!!と吹き出してしまった。
そのままヒーヒーと笑っていると、ニコラがスンッ……と表情をなくす。
「 そしてその後は研究三昧……。
10年間ですよ。10年。
あの研究塔から一切出なくなってしまったものですから、定期的に生存確認をしていたのですけどね。
そしたらある日、何やら派手な物音が聞こえ、お兄様が倒れたと思って慌てて扉を開けると、そこにはいなくなった時のままの変わらぬ姿の大樹様と、元気に腰を振っているお兄様の姿が──── 」
「 ああああああああ────────!!!! 」
俺は直ぐに大声を出してニコラの声を掻き消したが、ニコラは憎たらしい程冷静にまた紅茶を飲みだした。
いや、そもそも実の弟にそんな姿を見せてもケロッとしているレオンハルトが変!
ムスッとしながら、俺もテーブルの上に置かれたすっかりぬるくなってしまったお茶に口をつけた、その時────
バタ────ンっ!!!
大きな音を立てて扉が空いたため、口に含んだ紅茶を下に吹き出す。
そして凄まじい勢いと気迫で部屋の中に入ってきたその人物……レオンハルトは座る俺の股間部に顔を埋め、ガバッ!と腰に腕を巻き付けた。
「 一体どこに行ってたんですか!!
大樹様は景色と直ぐに同化してしまうのだから、私の側を離れないで下さい!! 」
景色と同化……。
……あ、地味だから?
暴言もここまで来たかと、流石に物申してやろうかと口を開きかけたが、俺にひっついてブルブル震えている姿を見て仕舞えば何も言えず……。
結局ヨシヨシと頭を撫でてやった。
そんな兄を見て弟のニコラは、ふふッと笑い、後ろから慌てて追っかけてきたアルベルトに「 ご苦労様。 」と労いの言葉を掛ける。
そして俺とワーワーとたらふく俺の文句を垂れるレオンハルトに向かって一言。
「 ────で?子供は直ぐに作りますか?
多分直ぐに10人くらいはできそうですので乳母はその倍の20人程用意しておきましょう。 」
そんなに産めるか!
ニコラとの会話に疲れて白目を剥いてグッタリした俺を、チャンス!と思ったレオンハルトは抱きかかえ、そのまま実家に帰っていき────
まぁ……
……
その内本当に10人くらいできたりして?と密かに思ってしまった。
ここまでお読み頂きありがとうございましたm(。≧Д≦。)m
この作品がささやかな暇つぶしになれましたら幸いです〜




