6 魔法の正体
◇◇◇
(王宮図書館内)
「へぇ〜?『浄化』っていうのは、モンスターっていう化け物相手に有効な攻撃手段の事か。」
本がズラッと並んでいる部屋の中、俺は一冊の本を手に取りそれを端から恐ろしい程の早さで読んでいた。
新型人類の能力の一つ《超速読》と《超理解》。
要するに、文字を読むのがめちゃくちゃ早いのと理解するのが早いって事。
探索を開始して直ぐに、俺は城内の一角にあった図書館らしき場所を見つけたが、流石は王族が住む場所と納得せざるを得ないほど警護の騎士たちがそこら中をうろついていた。
普通だったら侵入不可能。
しかし生憎俺は『普通』ではないので────騎士たちの視線が逸れた瞬間に、通常の視覚では捉える事のできないスピードで中へとあっさり侵入した。
ここに辿り着くまで目撃した人間たちを見ると、多分純粋な身体能力は俺のいた世界でいう旧型人類……つまり俺の様に『クリーチャー』の細胞を植え付けられてない人類より強いかな?くらいの様だ。
「う〜ん……。って事はモンスターっていうのは少なくとも『クリーチャー』よりは弱いんじゃないかな〜?
ただ、俺の世界にはない戦うための『力』がこの世界にはあるみたいだが……。」
ペラペラペラ〜と本をめくっては戻し、また新たな本を開いてめくっては戻しを繰り返していくと、【魔法】という『力』について詳しく書かれた本を見つけた。
この【魔法】という謎の『力』は、どうやら科学とは似て異なるモノの様で、自然に空気中に存在しているエネルギーを使って起こす事象の様なモノらしい。
その自然に存在しているエネルギーは前の世界にはなかったものだったため未知なものだったが、<超感覚>を使えば、捉える事が可能であることに気づいた。
『空気中に漂っているその未知のエネルギーを決まった法則で並べ、ある一定の決まった事象を起こす。』
どうやらそれが<魔法>と呼ばれるモノの正体らしい。
「なるほど?」
その魔法とやらについて書かれた本を全て読み終えた後、俺は人差し指をスッ……一本立てた。
すると────……。
……ぽぽっ!
自分の想像通り、マッチ程度の大きさの火が指先に灯り、思わずニンマリと笑った。
「こりゃ〜便利なもんだな〜。空気中に満ちているこのエネルギー……凄いパワーだ。」
思わず、ほほ〜う!と感心したが、続けて先程途中で見かけた騎士たちが魔法を使って火を灯している姿を思い出し、う〜ん??と首を傾げた。
何だかエネルギーの循環が悪いというか……何故かその空気中に漂っているエネルギーが、体の中にほとんど吸収されてしまっている様に見えた。
要は空気中に漂うエネルギーの形をそのまま直接変えて【魔法】を使うのではなく、一旦自身の身体に取り込み、そこで形を変えて外に放出する……というか?
騎士たちの魔法を使っていた様子を改めてよ〜く思い出し、更にもう一つの事実に気づく。
「明らかに必要なエネルギー量より、多くを身体に取り込んでいる気がするな……。
魔法を発動後の余った分のエネルギーは、どうなっているんだ??」
例えば『火を起こす』事象を起こすために必要なエネルギー量が『1』なら『10』をまず身体に取り込んで『1』の火を出す感じ。
では、残り『9』のエネルギー量はどこへ??────という事になる。
自分がこのエネルギーを使う際は、全く身体に入ってくる感じはしないため、俺は一つの仮説を立ててみる。
「もしかして、このエネルギーって、この世界で生まれた人達にとっては身体に吸収されてしまうものなのか……?」
馴染みがありすぎてほとんど身体に同化しちゃう、もしくは酸素的な存在なのかも……?
そう考えた所でフッと思い浮かんだのは、この世界の人間たちの体格についてだ。
先程は戦闘系の者達だからだと思っていたが、ここまでくるまでにちょいちょい目撃した人間達を見ても、全員が結構な高身長に筋肉質というか……要は、旧型人類よりは体格が遥かに良い事に気がついた。
ちょっと栄養価の高い酸素……?
その答えに辿り着くと何となくス〜……と、大きく息を吸い込みその恩恵を受けようとしてみたが、あまり効果があるようには思えなかった。
つまりこの世界で生まれ育った人達にとってこのエネルギーは、身体に自然と吸収されてしまうモノ。
そのため、効率がいい直接魔法を使うやり方はできないって事か。
とんでもない理論だが、それが正解なような気がする。
俺は読み終わった本を静かに本棚に戻した。
だからこのエネルギーが存在しない世界の人間が召喚された場合、身体がそれを吸収しない分、強力な魔法や未知の魔法が使えたのではないだろうか?
その強力な力こそが『浄化』。
ふむふむと何度か頷き納得した俺は、次に真っ暗な図書館の中を静かに見回し始める。
現在図書館内に流れる風とエネルギーの動きを<超視覚>で捉えながら、更に<超嗅覚><超聴覚>などの五感を全て同時に使いながら、注意深く観察していると────……。
───そよっ……。
ある一点から不自然な風とエネルギーの流れと、漂ってくる随分と古めかしい紙の様なモノの匂い、更に風がどこかに通っていく音が聞こえたため、俺はそこに向かった。




