51 それぞれの在り方
ススの子……。
忌々しいって……。
クンクンとお腹の匂いを嗅いでくるレオンハルトの頭を撫でながら、何故か俺が怒られるまでが通常パターンになっている事にため息が漏れた。
そのまま、あーだこーだとギャンギャン怒るレオンハルトの話をハイハイと聞いていると、後から追いかけて来たアルベルトがやっと部屋に入ってくる。
どうも剣の腕だけならアルベルトの勝利。
しかし魔法の腕ならレオンハルトが圧勝らしく、剣と魔法の勝負になるとレオンハルトが苦戦の末勝利、こうしてひと足先に俺の元へと帰ってくるというわけだ。
「聖女様とのお話はこれで終わりですね。楽しい会話をどうもありがとうございます。」
「……こちらこそ光栄でございますぅ〜。────って、結局何に使うのか聞いてないぞ?
もしかしてニコラ、どっか悪かったり〜……?」
中身はアレだが、外見は色白な優男なニコラ。
もしかして具合が……?
そんな心配をしてしまったが、ニコラはニコニコしながら、う〜ん??と少し考え込みながら、チラッと後ろに立つアルベルトに視線を一瞬向けた。
「実はアルベルトが病気なのですよ。気丈にもこうして立っていますがね、これは痩せ我慢です。」
えっ!!?と非常に驚いた顔をするアルベルト。
しかしレオンハルトはそれを信じたらしく、「ほぅ?どこが悪いのだ?アルベルト。」と尋ねる。
オロオロするアルベルトとは対照的に、平然とした様子のニコラが代わりにしれっと答えた。
「騎士団は男社会ですからねぇ……。更に遠征が多いとどうしても……。
ほら、夜通し(馬に)ユサユサ激しく揺さぶられますし、またアルベルトは(馬に)大人気なのでね。
(馬に)押し倒されてそのまま……。(じゃれつかれてます)」
「そうか。アルベルトを押し倒す猛者がいるとは……。やはり騎士団は我が国の最高戦力で間違いないな。」
アルベルトはニコラとレオンハルトの二人を交互に見て、スッ……と一切の表情を失くし、静かに言う。
「……ありがとうございます。」
俺はそのやり取りを見て理解しちゃったよね〜。
アルベルトが無表情なのってコイツらのせいじゃね?ってね!
俺は静かに立ち上がると、腹にくっつくレオンハルトを引きずりながら、アルベルトの肩をポンポンと叩きそのまま部屋を出て行った。
年始に咲く花なら、ちょうど今から探しに行き咲くまで見てればいいか。
丁度明日が年始と呼ばれる一年の始まりの日、1月1日であるため、夜中に咲いた花をそのまま届ければ依頼は達成ってわけだ。
現在俺は、レオンハルトの持つ個人資産ってヤツで暮らしている────いわゆるヒモ生活を送りつつ、こういったニコラから気まぐれに持って来られる依頼を受けてはお小遣いを貰って悠々自適生活を満喫している。
正直これはな〜……と思ってはいるが、レオンハルトとの事で思ったが俺って……流されやすい。
しかも物凄く。
30年以上生きてきて知った衝撃の事実。
しみじみとしながら、王宮内を歩きながらもペタペタとくっついて隙あらば触ってくるレオンハルトに強く言えない自分に大きなため息が漏れた。
俺達が暮らしているのは、前から変わらぬ王宮敷地内にある離宮で、とりあえず準備の為にそこに戻ると早速と言わんばかりにレオンハルトがチューチューとキスをしてくる。
そしてこのままグチョグチョ〜……がパターンだが、本日は大事な依頼があるため、やる気満々なレオンハルトの鼻を摘んで、その行動を止めた。
一応は元兵士。流石にお仕事に関しては流されるわけにはいかない。
「こ〜ら!今から花を探しに行くから駄目!めっ!!」
「…………。」
ムスッ!!とするレオンハルト。
諦め悪く俺の身体をさわさわと触るが、レオンハルトとて一応は元王子様。
俺同様お仕事モードに切り替わり、ムッツリしながら俺の身体から手を離した。
「分かりました。では早く行って帰りましょう。」
「まぁまぁ待ちたまえ、レオンハルト君。せっかくの外出なんだし、目一杯楽しもうじゃないか。
戦いなしの野営とか最高じゃん。俺、楽しみ〜。」
ウキウキしながら、部屋の中をゴソゴソと探ると簡易式テントや毛布やらを発見し、素早く荷物を纏め始めた。
するとレオンハルトはジッ……とその荷物を見つめ笑うと、いそいそとタオルやら着替えやらを用意しだす。
ちなみに離宮には常駐している侍女はほぼいなくなった。
レオンハルトが王位を諦め王にならない時点で侍女たちは、そのままニコラの暮らす王宮務めになり、今も女の戦いとやらを繰り広げている。
まぁ、あれを勝ち抜けるくらいの気概がないと国のトップの側にはいられねぇって事だろうな……。
でも、あのニコラ王の隣に立てる女……ねぇ?
俺の脳裏にはニコラの隣に立つ現在の正妃様が思い浮かぶ。
現在の正妃は王族に最も近い身分を持つ公爵家とやらのお嬢さん。
そしてそれを支える側妃は何と10人!しかもこれからも増える予定だそう。
その側妃の中ではNO・1、それがあの俺に忠告をしてきた侍女だったのには、ちょっと納得しちゃったよね。
名前は確か……イリスだったか?
ふ〜む……と記憶の中からその大出世した侍女について思い出した。
正妃とは良好な関係で、側妃達が王と過ごす時間を公平に分ける役割までこなし、今のところ側妃達の中で大きな争いはないのだとか。
ニコラといい正妃といい側妃といい、ただの一般兵士の俺からすれば、その揺るがない在り方とやらが本当にすげぇやと尊敬することしかできない。
いそいそと荷物を纏めてくっついてくるレオンハルトを見上げ、何だか堪らない気持ちになる。
やっぱりなんだかんだで嫉妬しちまうもんな〜。
他の人間を抱きしめてるのかと思うと。
そのままジッーとレオンハルトを見つめていると、レオンハルトはゆっくりと顔を近づけ口づけ……────を、同時に顔を背けて阻止!!
これから仕事、これから仕事チューしたら始まっちゃう!
二人揃ってそう呟いて、そのまま花が咲いているという森へと向かった。




