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聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど……??  作者: バナナ男さん
本編

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46 おかえりなさい

( 大樹 )


目を瞑り引っ張られる感覚に体を委ねていたが、突然感じた浮遊感に大樹は目を開ける。


するとあっという間に地面に引っ張られ転ぶと思いきや────何者かに抱き止められたお陰で落下をまぬがれた。


その人物は離さない!と言わんばかりに大樹の体に手を回し、より多くの体面積をくっつけようとぎゅーぎゅーと抱きついてくる。


大した時間は経っていないと言うのに、強く抱きしめられた事が懐かしく感じて嬉しくて、同じく手をその人物の背中に回した。



「 ただいま。 」



そう口にすると、抱きしめた人物はピクリっと僅かに動き今にも泣きそうな声で返事を返してくる。



「 ……おかえりなさい。 」



たったそれだけの言葉なのに更に嬉しくなって背中に回した手に力を入れると、そこでやっと違和感に気づいた。



あれ……??


なんか体格が前よりガッチリしている様な……?


それに……なんか臭くない??



手に触れる筋肉が記憶にあるものより厚みがある様な気がするし、いつも爽やかな石鹸の香りがしていたと言うのに、現在むわっと香るのは、汗の匂いと埃っぽい匂いで・・


んん??と俺は首を傾けながら、いったん顔を離す。


すると目の前の男の姿を見てを見てぎょっ!と目を見開いた。



「 レ、レオンハルト、なんでそんなに年取ってんの?? 」



何故か記憶の中の青年は歳を経て、俺と同い年くらいのおっさんへと変わっている。



え〜と……?


もしかして時間の流れがあっちとは違った……とか??



そんな予想をしながら目の前のレオンハルトをまじまじと見つめた。



多分俺と同じ歳か少し下……くらい?


しかし平凡な容姿の俺とは違い、元が美形なレオンハルトはイケメンそのままでちょっと筋肉量が増して、更に大人の男!的な色気がムンムンになった感じ。


とりあえずおじさん!というイメージは浮かばないのだが……。



俺は目の前のレオンハルトの頬を優しく触り、労る様に撫でる。



そんな美形セクシーおっさんなのに、まるで何日も寝ていない様な大きな隈と窪んだ目元。


そして頬もゲソっとこけてしまっていて、その魅力は半減してしまっている。


それに薄汚れた格好と匂いからも、とても王子様には見えない。



あんまりの変わりようにただただ驚いてその顔を見つめていると、おっさんレオンハルトの目からやがてじわっと涙が滲み、それを隠そうと慌てて袖で拭いていた。



あ、弱みは見せないぜ!的な性格は変わってないんだ……。


なんだか安心しながら、今度はすっかり薄汚れてゴワゴワになっている髪を優しく撫でる。



「 何かお前臭いんだけど……。


しかもご自慢のプラチナブロンドの髪がゴワゴワじゃねぇか。


どうしたんだ? 」



「 ……放っておいてくださいよ。 」



憎まれ口を叩きながら体を擦り付けるという正反対の行動を見せたレオンハルトは、俺の肩に顔をつけて「 ────っうぅ〜っ……。」と嗚咽の様な息を吐きだす。


そしてその直後肩が濡れていくのを感じながら、何が起きたのかは知らないが……何だか暖かい気持ちがいっぱいに広がっていくのを感じた。



なぁなぁ、もしかして俺の事、ずっと諦めなかったの?


こんなになるまでずっと……?



じんわりと暖かなその気持ちに身を委ねながら、とりあえずレオンハルトが落ち着くまでそのまま黙ってその身体を抱きしめた。



それから結構な時間が経って、多少は落ち着いたのか……?俺を抱きしめたままだが、レオンハルトは俺がいなくなった後の事をポツリとポツリと語り出す。



するとやはり予想通り時間の流れにかなりのズレがあった様で、なんと俺がいなくなってからこっちは約10年が経ってしまっているらしい!



その衝撃的な内容に、思わずブッ!!と息を吐き出してしまった。



時間の差が大きすぎる!!



ヒェェ〜……と心の中で悲鳴を上げて、レオンハルトがおじいちゃんになってなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。



そしてここは、俺が消えた場所である魔法騎士団の研究室で、レオンハルトはここでひたすら聖女召喚について研究し続けてたらしい。



「 えっ!ここってあの研究室だったのか! 」



書類や本で部屋の中は埋め尽くされ、あったはずの沢山の窓は全てそれに埋もれて、まるで巨大倉庫の中の様。


かろうじてそこら中に置かれたランプの光が薄暗く部屋を照らしてくれている。


面影の無くなってしまった部屋に驚きながら、更に近くに散らばる沢山の資料達を見ると、そこには召喚についての知識がぎっしり書いてあった。



しかし、ここで一つ大きな疑問が……。



「 聖女召喚について何でわざわざ研究してたんだよ?


だって普通にできてたじゃん。 」



サワサワと不埒な動きで腰を撫でる手をさりげなく止めながらそう尋ねると、むぅ……と僅かに不貞腐れた様な気配を感じた。



「 大樹様が消えてしまってしばらく経つと聖女が残した遺産はおろか、その記録の全てが消えてしまったんです。


そのせいで聖女召喚に使う魔法の術式も消えてしまって……。 」



「 えっ!?消えた??な、何で?? 」



不思議過ぎる出来事に疑問を持ったが、元の世界の変わりようを思い出し ” もしかして…… ” とある仮説を導き出す。



「 あー……。それって多分未来が変わったからかもしれないな。


聖女自体、ここに召喚された歴史も消えちまったんだろう。


あっちの世界はガラッと変わってたから……。


つまり酷い扱いをされた聖女はいなかったってこと。随分とクリーンな歴史を持つ国になったな。 」


                      

恐らく召喚された聖女達は、俺がいた地獄の未来の()()()の未来から召喚されたのではないかと俺は推測した。


俺がいた時代よりも遥かに科学が発達した未来だったから、様々な発明品や知識を持っていたのだろう。



そう考えると、きっと地獄の中で人類は新型人類だけではなく、より高度に進化した新たな ” 科学 ” という力を使ってクリーチャーと戦っていたのだと思う。



その未来での情勢はどうだったのかは知らないが、そんな未来があったと思うと────


なんだかそれが俺の記憶の中で死んでいった仲間達への最高の弔いの様な気がして、俺は静かに笑みを浮かべた。



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