45 最後の
( 杏花サイド )
突然消えてしまった大樹に驚いた杏花は、婚約者と共に悲鳴をあげたが……その場に残っているのはネックレスチェーンに通された指輪のみ。
杏花はそれを震える手に拾いジッと目を凝らしてよくよく見ると、少々古そうなその指輪は酷く歪んでいて、所々削れてすらいる。
「 もう指に嵌める事も出来なさそうだけど……こうして持ってるって事は大事な物……?
形見とかかな? 」
そんな存在を大樹から聞いた事がなかった杏花は、夫と顔を見合わせ驚いていた、その時────
〜♬〜〜♬
ポケットに入っている携帯電話から着信が入り、ビクッ!!と飛び上がる。
慌てて携帯を取り出すと、表示画面には ” 大樹 ” の文字が……。
震える手で通話ボタンを押すと、携帯からはいつもと変わらぬ様子の大樹の声が聞こえた。
《 あ、杏花!突然連絡ごめん。
今度の日曜日帰るからさ、お土産買ったから皆んなでご飯でもーー 》
「 ……えっ?今いたでしょ?ここに……。 」
恐る恐るそう尋ねると、電話の先の大樹は一瞬喋るのを止めてプッと吹き出す。
《 いや、俺まだ出張先にいるんだぞ?
そっちまで飛行機の距離なのにどうやって行くんだよ〜。
とりあえずまた連絡するな。
じゃあな〜。 》
プツッと切れてしまった電話からはツゥーツゥーという通話が切れた音なり続けていたが、杏花は固まったまま手に持つ指輪をもう一度見下ろした。
すると指輪の内側に薄ら彫られている文字を見て目を見開く。
「 ────えっ……?
な、なんで私と夫の名前が彫られているの……?
それに……歪んでいて気づかなかったけど、コレ、私の結婚指輪と全く同じじゃない……? 」
慌てて自身の薬指を確認し、指輪がある事にホッとすると、その瞬間────その歪んだ指輪は大樹同様跡形もなく消えてしまった。




