44 想いに別れを
(大樹)
記憶の中の彼女と比べ髪は長く腰くらいまで。
戦いに邪魔だと常に短く切っていた彼女からすれば信じられないが、それでも記憶の中そのままの杏花の姿に俺はふらふらと近づいていった。
そして間近でその顔を見下ろし、恐る恐るその顔に手を触れると……紛れもない杏花本人である事が分かり、その身体を思い切り抱きしめる。
「────うっぷ!!」
苦しそうに息を吐いた杏花にまた違和感を感じたが、それよりもまた会えた事が嬉しくて嬉しくて、随分と長い間そのままでいたのだが、すぐにパシパシッ!と背中を叩く音で我に返り、一度離れた。
「────ゲホッ!ゲホッ!!なんてバカみたいな力で抱きしめてくるのよ!苦しいわ!
それに大樹ってばその服何??いい年してそんな若い格好……。何?ちょいワルおじさんでも目指してんの?ちょっと痛いぞ〜?」
「ちょ、ちょいワル??……っていうか何で杏花生きてんの??だって死んだじゃん。」
「はぁぁぁ────??!!勝手に殺さないでよ!失礼ね!」
激怒する杏花を見下ろしながら、一瞬やっぱりココは天国なのでは……?と思ったが、目の前の杏花もしっかりと呼吸しているし心音も力強い。
ちゃんと生きている、何よりの証拠だ。
「そもそもこの街の様子はなんだ?防壁もないしクリーチャーもいない。
それに何で皆武器を持っていない??サイレンもならないし、可笑しな事だらけなんだが……。」
「いや、武器なんて持ってたら捕まるでしょ……何言ってんの?
大樹、まさかゲームの話でもしてんの??いい年して辞めなさいよ、全く……。
そもそも先月から仕事で半年くらい出張だって言ってなかった?」
呆れた様にため息をつく杏花。
全く話が通じない……。
ハテナマークをまた大量に飛ばしながら呆然としていると、突然「ママ────!!!」という子供の声が、遠くから聞こえた。
杏花は嬉しそうに微笑み「まきー!!」と手を振ったので、その声のした方へ振り返ると、そこには駆け寄ってくる小さな女の子と、死んだはずの杏花の婚約者だった男の姿があった。
そうか……。
そうだったのか……。
俺は全てを理解しアハハッ!!と大声で笑った。
俺があのクリーチャーを倒したから未来が変わったんだ。
だから杏花は死んでないし、婚約者だった男も死んでない。
突然笑い出した俺を不審げに見ながら、杏花は駆け寄ってきた女の子をヒョイっと抱き上げる。
「急に笑いだしてどうしたの?仕事で何かいいことあった?」
「うん!すげぇいい事あった!!」
俺が笑いながらそう言うと、杏花は笑いながら言った。
「そっか。なら良かったじゃない。世の中平和な証拠、証拠〜!じゃあ、またね!」
キャキャと笑う子供に頬擦りしながらそう言った杏花は、手を振る婚約者の元に戻ろうとしたので、俺はその背に向かって呼びかけた。
「────なぁ!」
「んん〜?何?」
振り返った杏花の顔を見て今までの思い出が全て頭の中を駆け巡った。
俺が初めて部隊に所属した時の事。
不安で泣き出した俺に寄り添って背中を撫で続けてくれた事。
戦い生き残る術を全て教えてくれた事。
そして……最後は命を助けてくれた時の事。
「俺!杏花の事が大好きだった!」
「はぁぁぁ────??!!」
驚き言葉を失ってしまった杏花だったが、突然ニヤリと意地の悪い笑みを見せてくる。
「ふ〜ん?それはどうもありがとう。でも『だった』って事は新しい大好きな人ができたってことでしょ〜?」
ニヤニヤ〜と笑う杏花に俺は困った様に頭を掻き、一人の人物が頭に浮かんだ。
「────うん。」
「へぇぇぇ〜?誰?誰?私も知っている人??」
ワクワクと胸躍らせる様子の杏花に苦笑いで答えた、その時────……。
『────────っ……っ……!』
あいつが俺を呼ぶ声が頭の中に響いた。
そして必死に伸ばしてくる透明な手が目の前に現れ、更にその手から漏れてきたエネルギーを感じ、迷う事なく俺はその手をとる。
すると────俺の体はその場から跡形もなく消えてしまった。




