42 帰還
( 大樹 )
身体に一瞬感じたのは浮遊感で、その後は慣れ親しんだ下へ引っ張られる様な重力を感じ、俺は異世界からの帰還を果たした事を知る。
そしてパッ!と変わった視界を見渡せば、俺とクリーチャーが現れたのはどこぞやの草むらの中である事に気づいた。
そこで必死にクリーチャーを押さえつけ、直ぐに駆けつけるであろう仲間の応援を待ったが・・誰もこない事に首を傾げる。
「 な、なんで誰もこない……??
それに……サイレンも鳴らないなんてどうなって……?? 」
クリーチャーが街中に一歩でも侵入すれば即座に警戒サイレンが街中に鳴り響き、旧型人類は近くに多数設置されているシェルターへ子供から順番に避難する。
そしてその現場には速やかに新型人類で形成された部隊が向かい、始末するはずなのだが……?
サイレンは鳴らないし、応援もこない。
それに違和感を感じながらも、暴れまくるクリーチャーを睨みつけ ” とにかくこいつを倒さなければ……! ” と俺はそのまま一人で死闘の末、何とか倒した。
「 ど……どうなっているんだ……??
結局誰も来ないじゃないか……。 」
完全に息絶えたそいつを見下ろし、はぁ……はぁ……と荒い息をつくと、今度はやっと空がおかしい事に気づいてギョッと目を見開きその空を見上げた。
「 何で空が……こんな色に……? 」
空は青く、光り輝く太陽もバッチリと顔を覗かせているため、" いつも見えている灰色の空は一体どこに?? " と狐に摘まれた様な気分で、俺は歩き出した。
とりあえず体中クリーチャーの体液まみれになってしまったため、近くを流れる川へ向かいそれをすっかり洗い流すと、改めて今の状況を考える。
聖女の召喚時の魔法は完全に同じ様に発動していたし、空気中を漂う謎のエネルギーもない事からここが元の未来である俺のいた世界に間違いはないはず。
しかしあまりに相違点がありすぎて、違和感しか感じられない。
う〜ん……?
どういう事かと考え込んだがサッパリ分からなかったため、とりあえず俺は近くに生えている大きな木を見て、そのままトントンっと上を目指して駆け上がった。
上から見れば何か分かるかも……。
そう思いながら駆け上がっていき、あっという間に木のてっぺんに辿り着くと、そのまま周囲を見渡した────が……
「 ────はっ??……はぁぁぁぁ────────!!?? 」
ギョッ!!とした俺は、思わず叫んでしまった。
様々な形の建造物達が立ち並ぶ街並み。
しかも見たことのないくらい沢山小さな家?の様なものが並んでいる。
それにも驚いたが、俺が一番驚いたのは────
「 ぼ……防壁が……ない……。
────えっ??な……なんで??? 」
街をぐるりと覆っているはずの防壁が影も形もなく、それどころか端が見えないほど遠くまで街並みが続いている様だった。
これじゃあクリーチャーが入り放題だぞ!?
それに焦りながら、直ぐにクリーチャーの気配を超感覚で探すが、全く感じる事ができなかった。
「 ???? 」
頭から大量にハテナマークを飛ばしながら、ゆっくりと地上に降りると、額に手を当て現在まで手に入れた情報から状況確認をしていく。
とりあえずココは俺の知っている世界ではない。
聖女召喚の魔法は完璧だったはずだが、もしかして────
「 ホントの異世界に間違えて来ちゃったとか……? 」
サァァ────……と顔色は肌色から青色へ。
そうしてしばしの間、その場に座り込んで考えていたが、今の時点で考えられる事はそれくらいなためまずは情報を集めるべきだと考えた。
「 あれだけの建造物だ。
科学は発達してそうだし、知性がある ” 人 ” が住んでいるなら、直ぐに攻撃されるって事はないだろう。
……しっかし、そんな沢山の建物が並んでいるのなんて初めて見ちゃったよな〜。
そりゃ〜レオンハルトの国も凄いと思ったけど、こっちはそれ以上だ。 」
向こうにいた三ヶ月は殆ど監禁されてしまっていたため、実際に街中に降りる事はなかったが、それでも『 始祖の女王 』を討伐する際に通った街並みは凄いと思った。
あの頃のツンツンしていたレオンハルトを思い出しクスッと笑ってしまうと、じわじわと寂しさを感じてしまい苦笑いに変わる。
「 やだねぇ〜。歳を取ると感慨にすぐ浸っちまう。
とりあえず今は情報、情報!
とにかく何としてでも土地奪還戦の前には元の世界に帰らないとな。
……そうじゃねぇと、あっちで死んでった仲間達に合わせる顔がねぇよ。 」
浮ついた心を叱咤するためパンパンッ!と両頬を叩くと、家が立ち並んでいた方へ向かって走り出した。
それなりに距離があったが強化された身体能力ならそんなに時間は掛からず、先程木の上から見えた街に辿り着く事が出来た────が……。
到着してすぐ、俺は呆然とその場に立ち尽くす。
「 な……何だ??
あの信じられない程隙だらけの人間たちは……??? 」




