38 さぁ、これが始まりだ
( レオンハルト )
後ろにいたアルベルトが動かなくなってしまった私を心配して声を掛け、それにハッ!とした私の意識は突然現実の世界へ戻る。
前を見れば未だにお祭りの様に騒ぎ喜ぶザイラスと魔法騎士団員達の姿があった。
私は首を横に振って頭から先程の妄想を吹き飛ばすと、浮かれているザイラスに話しかけた。
「 喜ぶのはまだ早いのではないか?まだ実際のモンスターに試してないのだろう? 」
「 フフフッ、殿下のご心配はもっともです。
しかし既にモンスターの肉片で試してみた所、完全に組織は崩れ去りましたから実験をするまでもないでしょう。
まぁ、安心して見ていて下さい。 」
ザイラスは魔法騎士達に命じ、< 聖浄化システム >に魔力を注入させはじめた。
するとうっすら赤黒く光っていた光りはどんどんと強くなり、やがてモヤッとした黒いモヤが部屋を覆い始め、アルベルトはその時点で私の前へ。
剣に手を当て黒いモヤを睨みつけいたが、ザイラスと魔法騎士団員達は平然とした様子でその黒いモヤを目で追う。
それに釣られる形で私とアルベルトもその黒いモヤの動きを目で追いかけると、そのモヤは上へ上へと立ち上り、天井まで到達すると、丁度部屋の中央────つまり低ランクモンスターが繋がれている場所の上に固まり、そして……
ザッ────────────……。
突然その黒いモヤから赤い雨が降る。
「 赤い雨……。 」
何故かアルベルトが愕然とした様子でポツリと呟き、体を固くしたのが分かったが、その理由は分からなかった。
ただその赤い雨は十分気味が悪いと感じるモノであったため、” 恐らくはそれに驚いたのだろう ” と軽く考え、そのまま赤い雨に打たれるモンスターを眺め続ける。
すると、そのモンスターはやがて鳴き声一つも上げずに、そのままズゥゥゥ────ン……と地面に倒れてしまった。
その効果に私は目を見張り、直ぐアルベルトに命じてその低ランクモンスターの息を確認させたが・・完全に息絶えている事が確認されたのだった。
「 素晴らしい。確かにこれは画期的な発明だ。
ザイラス、よくやってくれた。
確かにこれはこの国の ” 救世主 ” となるであろう。 」
「 有難きお言葉でございます。
これでまだしぶとく残っているニコラ様を支持する者達も全員が屈服するでしょうな。 」
ウキウキとご機嫌で話すザイラス。
これでもう誰も俺を排除する事ができない
私はその事を考えながら、やっと夢が叶うのだと歓喜した────はずなのに、やはり心は依然曇ったまま。
モンスターが全滅したら、戦闘能力を期待して置いておいた大樹様は用済み。
婚姻などで王族に取り込めない英雄は正直厄介な存在となる。
だから……
お別れ。
私は今置かれている状況を喜びもせず、ただただ一人を想っていた。
そして歓喜するザイラスと魔法騎士団員達、モンスターの息の根が止まった事で安心したアルベルト、全員がそれぞれの行動に思考を取られていたため、誰一人────
背後で息絶えたはずのモンスターが、ピクリッ……と動いた事に気づいていなかった。




