37 どこにいるの?
( レオンハルト )
「 ……ニコラ様は罪人に対する罰を重くするとおっしゃっていました。
あのお方は優しさの中にも厳しさがあるお方です。
それにご自身の母親を強く憎んでおられる……。
ですので、きっと王妃と共に腐敗した上層部も一網打尽にしてくれるでしょう。
」
「 ……何が言いたい? 」
言われた言葉が酷く癇に障り、静かな怒りを滲ませ問うたが、アルベルトはそれに臆する様子は見せずにまっすぐ私の目を見つめる。
「 俺は殿下を心の底から尊敬しています。
後ろ盾のない周りが敵だらけの中、強くここまで生きてきた貴方様のことを。
────ですので、どうか後悔のない選択を……。 」
「 …………。 」
アルベルトの言葉は胸に深く突き刺さり、心は大きく揺さぶられた。
後悔のない ” 選択 ”
” 会いたい ” が意味している気持ち
それが意味する事が目の前に突きつけられて迫ってきたが、過去の自分の ” 想い ” 達が必死にそれを隠す。
私はアルベルトから視線を逸らすと、そのまま何も答える事なく前を向いて歩き出した。
その後直ぐに先に行ってしまったザイラスにあっさりと追いつき、痛い程の沈黙が続いたままやがて塔の頂上にある研究室の扉の前に辿り着く。
鉄製の頑丈な扉には何重にも巻かれた防御魔法や隠蔽魔法が施されており、固く閉じられていた。
その扉にザイラスは手を伸ばし────度ピタリと止まった。
「 本日が初めての実物を使った検証となります。
ですので、万が一など決してございませんが、どうか気を油断はなさらぬ様に。
そして今から見たものはまだ他言無用でお願い致します。 」
キリッと真剣な表情で言い放つザイラスに、後ろにいるアルベルトは剣に軽く手を添えこくりと頷く。
私も無言でザイラスに目線を送りイエスと目で語ると、ザイラスはニヤッと笑い、仕掛けを解除し扉を開けた。
扉が開いて最初に目に飛び込んできたのは、部屋の中央で頑丈な鎖で繋がれている体長1m程のネズミ型下級モンスターで、その周りには沢山の黒いローブ姿の魔法騎士団が忙しなく動き回っている姿、そして────
「 一体何だ……?あの赤い球状の装置は……。 」
部屋の奥に置かれていたのは直径10mはあろうかという巨大な球状の装置?で、その色はまるで血を固めたかの様な黒みの強い色をしている。
そしてその球体から沢山のパイプやコードの様な線が取り付けられ魔力を溜め込んだ装置へと繋がれている姿は、酷く不気味なモノに見えた。
「 …………。 」
アルベルトもその異様な光景に驚いた様子でその赤い球体に視線を向け、警戒を解かないままジッと見上げている。
するとその装置の周りで動き回っていた魔法騎士団の団員達は、扉が開いた事で私の存在に気づき一斉に跪いたので、頭を上げる事を許すとザイラスがその装置についての説明を始めた。
「 どうですかな?
これこそが国を救う ” 救世主 ” になるであろう我々の最高傑作!
< 聖浄化システム >でございます! 」
「 ……なるほど。これが ” モンスターを滅ぼす ” 装置なのか。
初めて見る光りだ。 」
赤い球体からは、絶えずゴゥン……ゴゥン……という装置が動いている音が聞こえていて、周囲には赤と黒の混じりった怪しげな光りがゆらゆらと揺らめいている。
その光に密かにゾッとしたのだが、ザイラスと魔法騎士団は全くそう思わない様でギラギラと非常に興奮している様な目をその装置に向けた。
「 この装置に魔力を流す事で対象範囲にモンスターを弱体化させ息の根を止める劇薬が満遍なく散布されます。
するとその劇薬を浴びたモンスター達は強さに関係なく全滅!!
モンスター共に逃げ場などございません! 」
「 ……ほぅ?それはすごいな。
ちなみにその対象範囲は自由に設定できるのか? 」
私は顎に手を添えその画期的な発明を喜びながらも、疑問に思った事を口にした。
するとザイラスはニヤリと笑って自信を持って答える。
「 勿論です!
今から行う実験のためこの空間内だけに設定しておりますが、その後はこの大陸を越え世界中を対象範囲内に設定いたします。 」
それを聞き周りにいた魔法騎士団の者達はわっ!歓声を上げ一斉に拍手を始めた。
ザイラスはそんな喜びが渦巻くなか胸を張り得意げに笑う。
勿論この発明が身を結んだことが嬉しいのは私も同じ。
モンスターが全滅すれば、我が国はもっともっと豊かな国になる。
私が治める国。
その国の王になった私は、潤ったこの国を益々大きく発展させていき誰もが逆らう事のできない歴代最高の王になる。
そして母を殺し私を殺そうとしてきた者達に復讐を────……
そう考えた瞬間、突然私の目の前に、王になった自分が現れた。
堂々たる態度に漂う威厳。
誰もがひれ伏し頭を垂れる。
・
私はゆっくりゆっくりと王座へ向かい座ると、目の前には今まで私を決して認めようとしなかった者達も全て無様にも頭を下げている姿が目に入る。
” やっと ”
” やっと夢が叶った! ”
” 復讐してやったのだ!! ”
” これで私は幸せに……幸せに……。 ”
笑みを浮かべて隣を見れば、凛として堂々たる態度で隣に座るのは見知らぬ美しい女性。
笑顔のまま私は更に周囲を見渡す。
いない。
いない。
いない、いない、いない、いない。
ねぇ、どこにいるの??
「 ────殿下。 」




