36 会いたい
(レオンハルト)
「殿下……物珍しいおもちゃに夢中になるのは構いませんが、ご自身の立場と目的をお忘れになりませんようお願い致します。
殿下は王となるお方、勿論それに相応しき正妃も迎えなければなりません。
側妃もそんな王と正妃を支えられるそれ相応の身分と教養を持った女性でなければならないのです。
聖女でいくら強くとも男。更に無学、無教養……そして国に一生尽くす覚悟すらない者は、何一つ殿下の役には立たないのですよ。分かっておりますね?」
「……分かっている……。」
反論できないザイラスの言葉に、私は素直に返事を返した。
それを困った様に見つめたザイラスは、三度目になる大きなため息をつき、私に背を向けてまた歩きだす。
国を治めるために隣に立つふさわしい身分と実力を持った正妃。それに俺の様な予備の子を産む、それなりの身分と教養を持った賢き側妃が必要だ。
何一つ当てはまらない大樹様を想い、私は冷や水を頭から被った様な衝撃を受けていた。
王になるならそれは義務。今と同じ生活はできない……。
じゃあ────……。
ずっと一緒にはいられない……?
徐々にその事実が頭へと入ってくると、胸は剣で刺した様に痛む。
しかし、その理由を考えても、今の私には理解する事ができなかった。
『聖女』は私が王になる為のただの道具。
私の復讐は王になって、母を殺した者達や今まで私を亡き者にしようとしてきた者達、利用しようと企む者達、その全員を便利な道具として使い尽くしてやる事。
それが私の夢。
そうハッキリ断言する事ができるのに、頭に浮かぶのは自分が夢を叶えた姿ではなく……大樹様が隣で笑っている姿だけであった。
挑発するような言葉や言われたくない事を沢山言われて心底腹が立って……でも私の思惑を全て知っていて尚ユニークモンスターを倒して国を救ってくれた。
初めて怒られたし、思わず本音を漏らせば────今度は私の復讐を嫌いじゃないって言ってくれた。
階段を登る足は次第に遅れ始め、どんどんと重だるくなっていく。
何処ぞの女の名前を呼んで抱きついてきた事。
その時感じた初めて自分がぐちゃぐちゃにされた様な感覚。
ドロドロに溶けていく思考に信じられない程凶暴な気持ち。
その全てを手酷くぶつけて、最後は酷い言葉をかけようとした私に泣きながら『ありがとう』と言ってきた時の顔。
ズキズキという鋭い痛みと、痺れる様な甘い痛みが同時に胸に走り、思わずその場所を押さえた。
酷い事を沢山したのは分かっている。
薬を使って無理やり抱いてしまったし、その後の対応も最低だった自覚だってあるのに、それも受け入れて今も側にいてくれる。
あんなに強いのだからそんな酷い事をした俺を殺して逃げる事だってできるのに……。
────モヤモヤ、モヤモヤ……。
理解不能な自分の気持ちを持て余していると、今度は突然怒りが湧いてきて、そのイライラは外に飛び出しドス黒いオーラになって漂った。
大体大樹様はズルいのだ!
あんな暴言だらけでガサツな冴えない中年の癖に、突然妙に可愛らしい反応なんかするから!
それに快感に弱いし、キスをすると嬉しそうに笑うし……何だか妙な色気があるし……さっきだって可愛らしいおねだりをしてくるし!!
その時の熱くなった気持ちを思い出すとドス黒いオーラはシュ────……と収まっていき、ポンッポンッと幻の花が頭の周囲に咲く。
あとベッドに横たわりながらモクモクとぶどうを食べていた姿も可愛かった……。
キスしたら甘かったし……。
ムズムズしてきた気持ちを持て余しながら、頭に浮かんできた想いは一つだけ。
『会いたい。』
『会いたい。』
『貴方にいますぐ会いたい』
その想いはあっという間に体と心に広がっていき、自分の気持ちを痛いくらいに私に伝えてくる。
私は────────……?
とうとう足を止めてしまった私に合わせて、アルベルトも同じく足を止めた。
ザイラスは気づかず先に登っていってしまい、そこでハッ!と正気に戻った私が慌てて追いかけようと足を前に出そうとした、その時────突然いつもは黙って何も言わないアルベルトが突然口を開く。
「殿下が王になったら……一体どの様な王になるのでしょうか?」
「……突然どうした?」
怪訝な表情で後ろのアルベルトを振り向いたが、アルベルトの表情は酷く真剣なものであった。
内心ドキッとしたが……ポーカーフェイスは崩さず、私はそれに冷静に答える。
「私が王になったら……そうだな……。手始めに今よりもっと厳しく法律を定め直す。
そして母を殺し、私を幾度なく暗殺しようとした上層部は全員奴隷に堕とし、全てを私の管理下に置いた理想の楽園を創ってやる。」
「そうですか……。」
その後アルベルトは黙り沈黙が降りた為、それで話は終わりかと思いきやアルベルトはそのまま話を続けた。




