31 お前の……
( 大樹 )
気がつけばこんな生活が三ヶ月。
こんなにダラダラ過ごした事など人生の中で一度としてなく、戸惑っている内にこんな自堕落的な生活をただ淡々と受け入れてしまった……。
ぼんやりしながらモクモクとぶどうを食べていると────
「 美味しそうですね。 」
そんな声と共にズカズカと部屋に入ってきたのは、この生活を与えてくれる張本人であるレオンハルトだ。
レオンハルトは上機嫌で俺が横たわっているベッドに腰掛けると、そのまま俺の顎をツィ……と持ち上げ、そのままチュッと軽いキスをしてきた。
それを黙って受け入れると「 甘い。 」と、言って見惚れるような笑みを見せる。
レオンハルトはここに俺を入れた後、毎日毎日暇さえあれば来てこうやって戯れを仕掛けてきては嬉しそうに笑う様になった。
それに夜は毎日ここに帰ってきてそのまま────……
…………
あ、夜以外もか……。
今までされてきた数々の行為を思い出し、恥ずかしさにキュッと目を閉じた。
< 超回復 >なかったら、今頃俺、死んでたかも……。
目を開けて、ソッ……と労る様にお尻を擦ると、レオンハルトがそれに気づき俺の手の横でサスサスとお尻を触ってくる。
「 したくなっちゃったんですか?
全く……大樹様は本当に仕方のない人ですね。
まぁ、俺もこのまましてあげたいのですが……ザイラスがずっと研究していた物がついに出来上がったと言っていたのでこれから行かなければなりません。
戻ったらまた沢山沢山しましょうね。
ベッドもいいですけど、最初は庭でお酒を飲みながらはどうですか?
そうしたらお風呂も近いですし……まぁ、最後はベッドでまた汚れますけど。 」
甘〜く吐かれる言葉に合わせてお尻を触る手は怪しげな動きに変わっていったため、慌ててその手を握る事でその動きを制した。
すると、レオンハルトはキュッ……と目を細めて顔を赤らめる。
「 大樹様っ……そんな誘い方……っ!……はぁ……もう、どうしよう……。 」
「 …………。 」
興奮で震えているレオンハルトを見ながら、俺の方がどうしようと悩んでしまった。
何をしてもポジティブに捉えるレオンハルトに対して、NOという選択肢は基本ない。
それがこの三ヶ月でよく分かっていたので黙っていると、レオンハルトは愛おしげに俺の背を撫でたり軽いキスをしたりしながら、むぅ……と拗ねた様な表情を見せる。
「 煽るだけ煽っておいて、最近大樹さん直ぐにバテちゃうから……。
本当はもっと付き合って欲しいんですけど……。 」
「 あ、煽っ……??……えっ?もっと付き合えって……??
いや……俺、多分普通だと思うぞ……?
寧ろお前、俺が気絶した後もズッコンズッコンしているみたいだけど、どんだけやれば気が済むの? 」
呆れ果ててそう言うと、レオンハルトはギクッ!としながら、誤魔化す様に顔を近づけてきてチュチュっ!と軽いキスをしてくる。
もうさ〜……なんだかな〜〜……。
俺、凄い流されてない?
甘えてくる様なキスに絆されてしまい、まんまとまた誤魔化されてしまった。
結局流され何でも許してくれると確信しているレオンハルトは、愛おしげに何度か俺の顔を撫で回し、最後にもう一度チュッと軽いキスをすると、そのまま名残惜しそうに部屋を出ていった。
シ────ン……とする部屋の中で俺はポツリと呟く。
「 キスってこんなにしたりするもんなんだな……。 」
もっと特別感があると思っていた行為だったが、下手したら挨拶より多いこの行為に苦笑いしてしまった。
それにそれ以上の行為も一気に経験してしまい、正直正常な判断力を失っている自覚はある。
行為中の卑猥な言葉の数々と、信じられない程恥ずかしい動きの数々を思い出し、とにかく恥ずかしくて恥ずかしくて、ああああ〜……とうめき声を上げて枕に顔を埋めた。
そろそろ帰らないとと思っても、こうやってグズグズにされてしまい結局三ヶ月も……。
ソッ……と枕から顔を離し、そのままベッドにゴロンと仰向けになると、星空をイメージした天井が目に入る。
" 星空、綺麗だな。 "
レオンハルトと並んで夜空を見ていた時、感動して思わず呟いた言葉だ。
あっちの世界はどんよりと毎日曇っていて、星はほとんど見えなかったから、これにはホントに驚かされた。
まるで宝石をぶちまけた様な美しい星空。
それを見れただけでもこの世界にきて良かったと思えて、上機嫌で見上げていたのだが……何と次の日にはこの星空天井になっていた。
「 意外とレオンハルトって話聞いてるんだよな……。
全然人の話聞かない奴だと思ってたけど。 」
なんたってほとんど無理やりやられちゃったしね!
ハハッ!と自分で言って笑う。
しかも初めての時の真っ最中は本当に酷くて、暴言に次ぐ暴言の嵐に本気で心配になった。
まさかコレ女相手に言ってないよな……??
初めて他人から与えられる身体への大きすぎる感覚に、あっぷあっぷしながらそんな事をボンヤリ考えていると、レオンハルトは顔をぐしゃりと歪めてしまう。
” 何を考えているのですか?────あぁ、” 大事な ” 女の事? ”
" かわいそうに。 "
" こんなに汚れちゃったんだから、もうその女の所には帰れないでしょ。 "
" そんな女の事は二度と考えるな。こっちに集中しろよ。 "
「 いや、お前の心配をしてたんだよ……。 」
────と、言うこともできないほどそのままガッツンガッツンと想いをぶつけられて、その後は気絶しちゃったからね、俺。
その時の事を思い出しながら、俺はムクッと起き上がるとベッドの脇にある小さいテーブルの引き出しからいつも首に掛けている歪んだ指輪を取り出しそれをジッと見つめた。




