26 ズドンッ!
( レオンハルト )
「 ……何だ? 」
ギロリッと睨みつけてやると、全員ヒェッ!!と短い悲鳴を上げ慌てて頭を下げ、侍女達は素早く割れた花瓶の片付けを始める。
それを無言で見下ろした後、フンッ!と顔を背けそのまま歩き出すと、ちょうど俺を探しにきたザイラスに捕まった。
その後ろにはアルベルトと、見たことのない若い女が控えている。
「 殿下、そろそろお着替えのお時間ですので迎えに来ましたが……一体アレは何の騒ぎですかな? 」
花瓶を片付けたり、水で濡れた床を拭いたり……。
そう忙しそうに動く侍女たちを見たザイラズが不思議そうに尋ねてきたので、私は一瞬の間を置いた後「 ……侍女が溢した。 」と答えた。
すると片付けをしていた侍女たちは一斉に ” えっ!!? ” と驚いた顔をする。
「 なるほど、そうでしたか!
あの様な広い通路でぶつかるなど、とても普通ではありませんな。
酒でもコソコソ飲んでいたのかもしれません。
後でキツく注意しなければ……。 」
「 ……誰でも失敗はある。許してやれ。 」
「 ────殿下!!なんとお優しい!! 」
ザイラスはそれに感動したのか、目元にソッ……と白いハンカチを当てながら、後ろにいる知らぬ女を私の前に置く。
目の前に立つ若く美しい女性は私を見上げ、ぽぅ〜と頬を赤く染めたが、すぐに頭を下げて優雅な礼をした。
それを黙って見下ろしていると、ザイラスがペラペラと喋りだす。
「 殿下、ちょうどよい女性を連れてまいりましたのでご紹介します。
作戦は晩餐会後。この者に薬を飲ませあのニセ聖女を連れ出して貰います。
ですので、『 聖女の遺産 』をお渡し頂けますか? 」
「 作戦……? 」
美しい女性の姿が何故か大樹様の姿にボヤ〜・・と変わった瞬間、私は全てを思い出した。
” 適当な女にこのクスリを飲ませ──── ”
” これから丁度良さそうな女性をピックアップしますので、決行は晩餐会の後にしましょう ”
サアァァァァ〜……。
顔色はどんどん青ざめ、そして真っ白へと変化する。
そんな変化に気づいたらしいアルベルトが、私に何か話しかけようと口を開きかけたが……その前に私はペラペラと早口で話しだした。
「 あの『 聖女の遺産 』はニセモノであった。 」
「 ────へっ???いえ、そんなはずはございません。
あれはずっと魔法騎士団が厳重に保管してきたモノで…… 」
「 いや、ニセモノだった。晩餐会後に使うまでもないと適当な人間に使わせてみたが、効果はなかった。
諦めて次の作戦を立てよ。 」
完全なポーカーフェイスでそう言い放ったが、ザイラスは無礼にもジト〜〜……とした目を向けながら、私の周囲をぐるぐると周り始めた。
「 ……そうでしたか。
では、その試した者の名を教えてくださいますか?
是非感想を聞きたいので。 」
「 そ……それは…… 」
意外にもしつこく聞いてくるザイラスに、私は困りスッ……と視線を逸らすと、そこには涼しい顔で立つアルベルトの姿が。
「 アルベルトだ。 」
「 はぁぁぁ??!! 」
「 ??!!!? 」
言い逃れできない様、ビシッと指をさしてやったら、アルベルトは ” えっ!!? ” という顔で私を見る。
それを聞いたザイラスは、鬼の形相でグルンっ!とアルベルトを振り返りガミガミと怒り出した。
「 アルベルト!貴様!!さては資料を届けさせた時だな!?
なんてことをしてくれたんだっ!! 」
「 ??……も、申し訳ありません……?? 」
アルベルトは一応謝りながら、チラッチラッと私の方を見てきたが、私はスッ……と静かに視線を逸らした。
ギャーギャーとザイラスの絶叫に近いお叱りが続き、その後少し落ち着いたのか息を乱しながら胸ポケットから懐中時計を取り出す。
「 全く!!アルベルトは後でまた説教だぞ!!
仕方がありません。また次の作戦を練り直しましょう。
まずは晩餐会の時間が迫っていますので急いで準備を。
侍女たちは殿下の着替えを手伝え。 」
ザイラスは眼の前の女に下がるよう命じた後、パンパンと手を叩くと、すぐに周りにいた侍女たちが頭を下げ歩き出した私の後に続いた。




