24 綺麗
(レオンハルト)
「杏花……?」
大樹様は目を見開き、信じられないと言わんばかりの顔でフラリ……と立ち上がる。
見たことのない大樹様の様子に、私はドキッ!としながらそのまま立ち尽くしていると、大樹様はおぼつかない足取りで私の目の前まで来た。
見上げてくる目には薄っすらと水が張り、今にも泣き出しそうで、目を逸らすことができない。
……綺麗。
外見はただの小汚いおじさんだと思っているのに、今自分を見つめる瞳はキラキラ光ってとても綺麗で、何だか吸い込まれてしまいそうな気分になった。
そして大樹様はゆっくりと手を伸ばし、私の肩に触れ、頬に触れ、髪に触れ、その存在を確かめる様に優しく触れてくると────そのまま強く抱きついてきた。
突然暖かい体温に包まれたせいか、私の心臓は大きく鼓動を始め、頭の中は真っ白になってしまう。
────ドッ……ドッ……ドッ……。
激しく鳴る心臓の音だけが聞こえる。
そして身体にピタリとくっつく体温の暖かさにクラクラしながら、手が勝手に大樹様の腰に絡みつきそのまま逃さないとばかりに強く抱きしめた。
暖かい……。
それに……何だか……。
凄く気持ちいい……かも?
正体不明の感覚が身体を支配し始め、単調な言葉しか頭に浮かばない。
ただただその心地よさに次第に身を任せ、随分長い事抱き合っていたのだが……突然大樹様は顔を俺の胸元から離し、俺を見上げると幸せそうに笑った。
その笑顔を見ると何故か堪らない気持ちになって、心臓は更に強く鼓動しだし、頭も身体もドロドロと溶けていく様な感覚を味わう。
そんな生まれて初めての感覚に翻弄されながら、突然フッと思った。
俺の先に大事な女がいるから笑うのか……。
幸せそうに微笑む大樹様。
その笑顔はこんなにも自分を乱しているというのに、自分に向けられたものではない。
それに気づくとドロドロした感覚は自我を食い殺し、心は真っ黒に染まっていった。
そしてそのまま更に強く大樹様の身体を抱きしめ、その存在を確かめる様に触れる。
優しく撫でる様に。
絡めて絡めて逃さない様に……。
そうして夢中になって触れていると、なんだかくすぐったそうに身を捩って逃げようとするので、あまりこういった触れ合いに対し慣れていない感じがした。
こういうふうに身体を触られた事……ないのかな?
その女とも……?
それが嬉しくて、興奮してしまい背筋にゾクゾクとしたものが走る。
相手は絶世の美女でも何でもないただの中年の男だ。
なのになぜ……?
遠い所からそんな声が聞こえてきた気がするが、俺の手は大樹様の腰や背中、臀部などを撫で回しながら、戸惑うように身体を一旦離そうとする大樹様を更に強く抱きしめた。
もうぐちゃぐちゃだ……。
心も身体も。
どんどん身体が熱くなり、興奮が天井知らずに上がっていく事に恐怖を感じたが、それでもコレを手放せない。
気持ちいい……。
もっともっともっともっともっと────……。
…………。
一体何が起こった……???
私は目の前に横たわっている服を身につけていない大樹を呆然と見下ろす。
そして言い逃れができない状況に私は頭を抱えた。




