14 野生の猫か
統率された動きとチームワークを活かした攻撃は、流石は実力高き騎士団達。
その為思ったよりもかなりハイペースで進んでくれて、森の中央に近いくらいの場所まで到着する事が出来たが、そろそろ限界は近い。
新人騎士の中には必死に隠してはいるが、疲労で剣が上手く握れなくなってきた者達もいる様だ。
「とりあえず今日はここで休憩をとろう。ちょうど泉があるし、野営するのにちょうど良い。」
「────えっ?しかし、こんな場所では……。
一度引き返し、<防御結界>の範囲内へ避難してはどうでしょうか?」
<防御結界>
モンスターが入れない様にする結界。
一定以上のダメージを負わない限り壊れることはない。
しかし発動する為の魔力コストは高く、基本は何十人かで協力して作る。
「大丈夫大丈夫。このおっさん聖女に任せなさい。」
俺はポキポキと手を鳴らした後、人差し指をピッ!と立て、そのまま横に振った。
すると泉を中心とした辺り一面に<防御結界>が張られ、完全なセーフティーゾーンが出来上がると、それに気づいたレオンハルトとアルベルト、そして他の騎士たちもギョッ!と驚いた様子を見せる。
実は<防御結界>は、結構難しい魔法に分類されているらしく、それをアッサリ作り出した事に非常にビックリしたらしい。
俺が、ふふ〜んとドヤ顔で笑ってやると、レオンハルトはハッ!と正気を取り戻し、直ぐにツツンッ!と顔を逸らす。
野生の猫みたいな奴〜。
もっと揶揄ってや〜ろお!
にひひ〜と悪い笑いを漏らしながら、レオンハルトをもう一度見ると、疲労が色濃く出ていて小さく手が震えているのに気づいた。
何故かというとこの王子様、どんな心境の変化か知らないが、モンスター相手に自らも戦いに参戦し、騎士と同等……いや、それよりも遥かに強い実力で戦い続けたからだ。
『どうせ後ろで偉そうにふんぞり返っているだろう。』
てっきりそう思っていたので、その戦う姿を見た俺の衝撃は凄まじく、思わず心の中で『おおおおっ!!?』と叫んでしまった程であった。
確かに体幹はかなり良さそうだし、体も鍛えてそうだなとは思っていたが、まさか剣の腕前まで免許皆伝レベルだったとは……。
どうやら相当努力はしてきた様だ。
ただ戦い慣れてはいない様だったのでアルベルトがちょいちょいフォローはしていたが、それを差し引いても後ろで見ているだけの王子様の腕前ではなかったため、実はちょっとだけこの王子様を見直してたりする。
性根までは腐ったヤツじゃないのかもな……。
ツツ〜ンッ!
未だに視線を合わせてこないレオンハルトを見てニヤッと笑った俺は、前に回り込み無理やり視線を合わせてやると、キョトンとする王子様に向かって口笛を吹いた。
「レオンハルトって強いんだな〜。
よっ!完全無欠の王子様!カッコいい〜!!惚れるぅぅ〜!!」
ちゅ〜!と唇を尖らせながらからかってやると、レオンハルトはカァァァ〜……と顔を赤らめ、首が一回転しない?と心配になるくらい大きく横を向いてしまう。
『あれ?もしかしてだいぶ怒らせちゃった感じぃ〜?』
……などと思ったのも束の間、突然ブツブツと訳の分からない事を言い始めた。
「……ま、まぁ?大樹様は男なので、正妃にすることは出来ませんが……。
まっ、末端の末端の……更にもっともっと遥か先の末端くらいなら……もしかして空いているかもしれません。
ど、どうしてもというなら俺も色々考えて……。」
「???────あ〜、そういえば王族って専用のハーレムがあるんだっけ?
へぇ〜レオンハルトは今何人くらいいるんだ?100人くらい?
まさか嫌がる女性を無理やり入れたりなんか……?」
ジロジロ〜と疑いの目を向けると、心外!!とばかりに目を釣り上げるレオンハルト。
「────なっ!!無理やりなど入れてません!!
寧ろ女性は全員喜んで俺の側妃になりたがりますので!」
「ほほ〜ぅ。そいつは凄いな。お前顔綺麗だもんな。クソ羨ましい事で〜。」
レオンハルトのおでこを軽く突いて揶揄うと、ムッとした顔を見せてきたが必死に平静を装おうとする。
何だかその姿が誰かさんと凄く似ていて……。
懐かしい記憶がブワッと頭の中一杯に広がっていった。




