第３章 スパイウェア・アプリ
アレクサンダー・ノヴァキ政権下の日本では、言論の自由が厳しく制限されていた。SNSは監視され、政府批判の声はたちまち取り締まりの対象となった。しかし、日本人は抵抗を諦めず、隠語や比喩を用いて、政府への不満や団結の呼びかけを続けていた。
例えば、「桜が散る」というフレーズは、政府への失望を示す隠語として使われ、「青い空を取り戻そう」という表現は、自由な表現の場の回復を願う意味で使われた。このような隠語は、SNS上で急速に広がり、政府の目をかいくぐる手段として機能した。
政府はSNSの監視を強化し、不満の声を封じ込めようとしたが、日本人の抵抗はなかなか沈静化しなかった。市民たちは様々な方法で情報を共有し、統制されたメディアに対抗する知恵を絞った。
しかし、政府はより強行な手段に出る。かつて豊かで平和だった時代に流行したネオヴァリア国開発の短尺動画投稿アプリ「クリプトクリップ」には、実はスパイウェアが仕込まれていたのだ。多くの若者がこのアプリを利用していたが、知らず知らずのうちに彼らのスマートフォンから個人情報が抜き取られていた。これにより、ユーザーの趣向、行動、さらには政治的意見までが政府に筒抜けになっていた。
佐藤健二、山本隆、田中美咲は、この厳しい状況の中で「クリプトクリップ」の危険性に早くから気づいていた。彼らは別のSNSプラットフォームを利用し、「クリプトクリップ」に仕込まれたスパイウェアの存在を暴露し、ユーザーに対して警告を発していた。彼らのメッセージは、「クリプトクリップは政府の監視ツールである」という内容で、若者たちに対してアプリの削除を強く促していた。
このような中、政府は「国家反逆罪法」を制定し、SNSでの投稿内容に関わらず、若者たちを次々と逮捕し始めた。クリプトクリップを使用していた若者たちは、自身の意見を自由に表現しただけで、国家反逆罪の容疑で拘束されるようになった。これにより、日本中の若者たちの間に恐怖が広がり、自由に意見を表現することが危険な行為となった。
健二はテーブルに拳を強く叩きつけた。「もう終わりだ...俺たちの警告は無視され、みんなただ連行されていく。」
隆は椅子を蹴飛ばし、声を荒げた。「僕たちの努力はどうせ無駄だったんだ...。」
美咲は壁に背を向け、声を震わせた。「あんなに必死で伝えたのに、なぜみんな理解してくれなかったの？」
健二は壁に向かって拳を打ちつけ叫んだ「俺たちがどれだけ叫んでも、ただ楽しいだけのアプリに魅了されやがって...。その代償が逮捕かよ！」
隆は椅子にもたれかかり、頭を抱えながら言った。「プログラマーとして僕にもやれることは無かったのか。。。」
美咲は窓の外を見つめ、「もはや、どうしていけばいいの...。」と苦悩した。
健二は力なく呟いた、「俺たちの抵抗は、ほとんど意味をなさない。もう諦めよう」
山本は立ち上がり、力強く言い放った。「いや、諦めちゃいけない。諦めた先には地獄しかないぞ...」
美咲は深くため息をつき、「そうね。戦い続けないと。地獄に堕ちたらもう２度と戻ってこれないわ」と決意を新たにした。
