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白女の琵琶  作者: ナウ
2/8

白子と犬神人

鳥は、異所ことところのものなれど、鸚鵡おうむ、いとあはれなり。

人の言ふらむことをまねぶらむよ。

郭公ほととぎす水鶏くひなしぎ都鳥みやこどりひはひたき

山鳥、友を恋ひて、鏡を見すれば慰むらむ、心若う、いとあはれなり。谷隔てたるほどなど、心苦し。

つるは、いとこちたきさまなれど、鳴く声の雲居くもいまで聞ゆる、いとめでたし。

頭赤きすずめ斑鳩いかるが雄鳥おどり巧鳥たくみどり

さぎは、いと見目も見苦し。

眼居まなこゐなども、うたてよろづになつかしからねど、ゆるぎの森にひとりは寝じとあらそふらむ、をかし。

水鳥、鴛鴦をしいとあはれなり。

かたみに居かはりて、羽の上の霜払ふらむほどなど。千鳥、いとをかし。

うぐいすは、ふみなどにもめでたきものに作り、声よりはじめて、様かたちも、さばかりあてに美しきほどよりは、九重ここのえの内に鳴かぬぞ、いとわろき。

人の「さなむある」と言ひしを、さしもあらじと思ひしに、十年ばかり侍ひて聞きしに、まことに更に音せざりき。

さるは、竹近き紅梅も、いとよく通ひぬべきたよりなりかし。まかでて聞けば、あやしき家の見所もなき梅の木などには、かしかましきまでぞ鳴く。

夜鳴かぬも、ぎたなき心地すれども、今はいかがせむ。夏、秋の末まで、老い声に鳴きて、虫食ひなど、ようもあらぬ者は名をつけかへて言ふぞ、口惜しくくすしき心地する。

それもただ雀などのやうに常にある鳥ならば、さもおぼゆまじ。

春鳴くゆゑこそはあらめ。、心ゆかぬ心地するなり、祭の帰さ見るとて、雲林院うりんいん知足院ちそくいんなどの前に車を立てたれば、郭公ほととぎすも忍ばぬにやあらむ、鳴くに、いとようまねび似せて、木高き木どもの中に、諸声もろこえに鳴きたるこそ、さすがにをかしけれ。



敷いた筵の上に座り琵琶を抱いて村の一角で歌う菖蒲

とはいえこれは単なる練習がてらであり本調子ではない

真昼間から琵琶を聞きに来る暇な大人はいない

それでも寄ってくる人々はいて子供が多いが大人も聞きに来る者がいる


ぱちぱちぱち


所々で起きる拍手

その中に一際大きく手を叩く子供がいる

良くは見えないが拍手の音からしてまだ手の小さな子供だ


「おいお前」


その大きな拍手をした子供が菖蒲に話しかけてきた

どうやら男の子のようだ

いきなりお前とは無礼だが所詮は子供だ、大目に見ておこう


「何か?」

「お前、その歌は何だ?、自分で作ったのか?、どこかの流行り歌か?」

「これは清少納言様の書かれた枕草子の一節です」

「お、枕草子か、読んだことねーや」

「そうですか」

「お前、何で清少納言の書いたの知ってんだ?」

「私の師やその知り合いの方々から教えて頂きました」

「お前の師?」

「琵琶法師でした」

「ああ、盲僧めくら法師か、あれ?、お前も盲人めくらか?」

「微かには見えます」

「そうか、それにしてもお前俺と同い年ぐらいだな、白髪なんで最初は婆あぁかと思ったが声聞いたら若いからさぁ」

「まぁ…」


面倒臭いと思いながらも菖蒲は少年の相手をする

練習の邪魔だが追い払うのも何か変な噂を立てられそうでこれまた面倒だ

それにしてもこの少年の臭いは…


「独特の臭いがしますね」

「お、すげーな、鼻は良いのか」

「あなたは?」

「俺は清目人だ」

「清目人?」

「神社内を綺麗にしたり死体とか片付けたりする仕事だ」

「あなたは鎌倉の人ではないですね?」

「そう、京から来た」

「京?、京の都⁉︎」

「だよなぁ、何かそう言うと田舎の連中は驚くんだよな」

「京から来たなんて凄いですね」

「そうかぁ?」

「だって京の都ですよ?」


田舎の人間にとって京の都は憧れである

京の雅な都は若者の心を強く捉えて離さない


「どうしてこの鎌倉に?」

「鶴岡八幡が火事なって再建すんのに石清水から八幡様と一緒に鎌倉まで来たんだ、俺の親父は清目人なんで一家でこっちに来た」

「そうですか」

「まぁこっちには非人だ犬神人だと言ってくる奴らがいなくて楽だけどな」

「犬神人?」


非人は知っているが犬神人は初めて聞いた


「神人の中でも下っ端の雑用をそう呼ぶ連中がいてな、清目人だっつーの」

「酷い者がいますね」

「京はそんなのばっかだぜ、貴族や位の高い坊さん以外は人扱いされねーし盗賊や野良犬もうろつき回るし死体は京中ゴロゴロよ」

「知っている京の都の印象とは随分違いますね」

「嘘だと思ってるだろ?、だけど俺は実際見てきた」


少年の話が半分だとしても京はどうも菖蒲が思っているみやびな世界とは違う様子である

ただ子供の話だ、どこまで信用できるか

しかし確かに琵琶法師達の話や旅で一緒になった傀儡子達も京の話は避けたり治安が悪い云々といった話がこぼれたりといった事はあった


「お前名前は?」

「菖蒲」

「菖蒲?、あの草の菖蒲か?」


菖蒲を草と言えば草ではある


「俺は蔓草丸つるくさまるだ、草繋がりだな」

「…どうも」

「それにしてもこんな所で女の琵琶弾きに会うとは思わなかった」

「他にはどこで?」

「おう、京から鎌倉に下がってくる途中の青墓宿ってとこで多くの女芸者を見た事がある」

「そこに琵琶弾きも?」

「おう、いたいた、そう言えばお前の琵琶は少し小さいな、何だ?」

「師から貰ったものです」

「そうか、子供用か?、まぁいいけど」

青墓宿あおはかのしゅくは聞いた事があります」

「結構有名らしいからな、そういえば白拍子ってのもいたな」

「白拍子ですか」


この鎌倉にも何年か前に京で有名な白拍子が来て鶴岡八幡宮で舞ったと何度も聞いた事がある

何年も前の事なのにその当時の話は今でも語り草になっているらしく、その白拍子一行が来た時は平民だけでなく武士達も多く集まり歓待で大騒ぎだったらしい


「おっとやべぇ暇潰してらんねぇ、また親父に怒られる、んじゃまたな」


そう言うと蔓草丸は走ってどこかに行ってしまった

非人ひにん

現代では差別用語、主に芸能や技能職にいた人々指すらしい

ただ範囲が広く特定の種類を指す言葉ではないようだ

ただ河原人等の河原に居住していた人々を指して言われる事が多そうな感じではある

最初はある程度の地位や自由があった人々だが時代と共に地位は低下し差別の対象になっていったとか


犬神人いぬじにん

有名な所では祇園社の犬神人が有名、下級神官

死穢の清掃や葬送、種々雑用をしていたとされる

穢れは平安貴族達にとって恐怖の対象だったためその清目人たる清掃者は絶対に必要だった

童形で赤い法衣を身につけ白い布で覆面し棒を持つ

その姿から平家物語に出てくる禿童かぶろとの関連性を指摘する人もいる

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